その小さな手を
アスランは、その日のうちに議長に謁見を求め、カガリのことを上手く父に説明した。
カガリに頼まれたからではない。
彼女の力になりたいという、アスラン自身の意志によるものだった。
…結果、オーブの第一王女はプラントの客人となり、アスランの保護下に置かれることとなったのだった。
「ここがアスランの家か!これからよろしくたのむ、家のことは何でもてつだうぞ!」
元気よく走りまわっているカガリに、アスランも自然と笑みがこぼれた。
アスランは15歳で実家を出て一人立ちし、プラント内の邸宅で暮らしていた。
プラントでは15で成人と認められるのだ。
以来アスランはずっと一人暮らしで、通いの執事と使用人が数人、そして秘書と友人がよく出入りしているくらいだった。
…そこに突然、奇妙な縁でちいさな同居人ができたというわけである。
ちなみにカガリに付いてきた護衛は全員オーブに帰し、プラントにとどまったのはカガリ一人であった。
“女性が一人うちで暮らすことになった。身の回りの物をそろえてくれ”
秘書官であるダコスタはそう命じられ、飛び上がるほど驚いた。
まさか…アスラン様に恋人が…!?
ダコスタは邸宅を訪れ、その女性を見てもう一度飛び上がりそうになった。
なんと10歳の少女だったのだ。
アスランは現在27歳…
その年齢差に色々な妄想が飛び交ったが、彼は黙って任務を果たし、邸宅をあとにした。
ダコスタの反応はまだマシな方だった。
ある日、アスランの家を訪れた友人…キラ・ヤマトは思わずこう口走った。
「アスラン…きみ、隠し子なんていたの…!?」
「蹴られたいか、キラ」
キラはアスランの幼馴染で親友、そしてザフトで隊長を務めている男である。
アスランは政治、キラは軍の方で名を馳せている幼馴染コンビだった。
「いや、だってさ…」
「彼女はオーブの第一王女だ。訳あって俺が保護者になってな」
庭で蝶を追いかけている少女を見つめながら、キラはしばらく開いた口が塞がらなかった。
隠し子などではないことはまぁ確かだろう。
同じ女と二度寝ない、が昔からアスランの主義だということはキラもよく知っている。まさか避妊を怠ったとは思えない。
いや…それよりも問題は…
このアスランの表情…!!
「なんて顔してるの、アスラン…」
「え?」
キラの方を向いたとき、アスランはいつもの顔に戻った。
さっきまでカガリを見ていたときは気持ち悪いくらい微笑んでいたというのに。
「………なんでもないです。」
キラはもうなんとツッコんでいいのか分からなかった。
「…でもさ、オーブのお姫様なんか預かっちゃってほんとに大丈夫なの?」
アスランにメリットは一つもない。
むしろ何か問題が起きたら大変でデメリットの方が…ということをキラは言いたかった。
しかし。
「大変だけど、毎日楽しいよ」
何も考えず、アスランは単純に思ったことを返したのだった。
(信じられない…)
帰り道、キラは頭の中で何度もその言葉を唱え続けた。