その小さな手を
「そうか、おまえがアスラン・ザラか。一度あいたいと思っていたんだ!」
とりあえず本部の応接室に移動し、アスランは事情を聞くことにした。
カガリはアスランの名前を聞いて意外な反応を示した。
「姫は、わたしのことをご存知なのですか?」
このアスランの言葉遣いは、本来ならおかしい。
アスランとカガリの年齢差のこともあるが…
何よりオーブ王国はプラントが支配している国の一つにすぎないのだ。それも小国で力のない国だ。
いくら王女とはいえ、プラント最高評議会議員のアスランの方が立場は上であった。
しかしアスランは、そんなものを彼女に振りかざしたくないという思いにかられていた。
この微笑ましいほど凛々しい姫には、敬意を表したい、と。
「知っているにきまっているだろう!私だって世界のじょうせいは勉強しているんだぞっ」
「それは、失礼しました」
アスランはふっと笑みをこぼしながら一礼した。
この姫との会話を楽しんでいる自分が確かに存在している。
「それで、姫はなぜこのようなところで? 先ほど隠れていたとおっしゃっていましたが…」
「ザラ議長閣下にあいたくて来たんだ。それで本部をうろついてたら、けいびの者にみつかって…」
とっさに窓の外に逃げたら足場がなくて落ちてしまった、と少女は軽快に笑った。
聞かされた方は頭を抱えたくなったが。
「…まさか王女が御一人で?」
「ああ、ごえいは何人かつれてきたが、いまごろ乗ってきたシャトルの中で大さわぎで私をさがしてるだろうな」
今度こそアスランは頭を抱え、その場にある通信機に手を伸ばした。
「ちょっ…まて!あっちに連絡するつもりかよ…!」
「当たり前です」
「私は議長閣下にあいにきたんだ、あえるまで帰らないぞ!議長はおまえの父なのだろう? とりついではもらえないか!?」
「……そう言われてもな…」
その必死な様子に、アスランは困りながらも通信機から手を放した。
「…議長への要件とは? 代わりに私が伺いましょう」
「議長にあわせてくれたら話す!」
「そう簡単に議長への面会は取り次げません。どうかご理解を…。それとも私は信用できませんか?」
「………。わかった」
カガリはアスランの目をじっと見つめて、うなずいた。
「…わがオーブ王国の地下には、ぼうだいなエネルギーしげんがある」
「ええ、存じてます」
「先日プラントはそれがほしいと言ってきた。あのエネルギーを取られたらオーブは…もたない。民の生活はこうはいするんだ」
少女の目と言葉は、確かに市井の子どものものではなかった。
「そうして力をけずって押さえつけるつもりだろう? だが、わが国はプラントに敵対する気などない。私はそれをしめすために来た」
「…私が人質になる。私がプラントにいれば、オーブは絶対にプラントにさからったりしない」
「姫…」
アスランは絶句した。
まだ10歳の女の子が…王女としての風格と、鋭い政治・外交感覚を兼ね備えていたのだ。
「だからどうか、オーブのしげんに手をだすのはやめてくれ。私は国をまもりたいんだ…!」