その小さな手を




「カガリ…変なこと聞いていいか?」

「……ん…?」





半分眠りについていたカガリの髪に触れ、「起こしてごめん」という優しいキスをしてからアスランは再度尋ねた。
二人ともまだ愛し合った姿のままだった。


「俺って誰だと思う…?」

カガリはその質問の意味が分からず、首をかしげてアスランの補足を待った。


“俺は……誰なんだろう…”
それはアスランがあのとき空を見上げて呟いた言葉だった。


「いや…なんかふと思い出して。初めてカガリが降ってきたときのこと…」

「降ってきたって…? ――――あ、」


カガリも思い出した。アスランと初めて会ったときのことを。
自分が3階の窓から落下したところにアスランがいたのだ。
今思えば、あんな場所でアスランほどの政府要人が一人で歩いていたのは不自然だった。


「あのとき俺…そんなこと考えてたんだ。自分が一体何者なのか分からなくて…」

「………」


質問の意味がなんとなく分かったカガリは、少し考えてからあえて質問で返した。


「今も分からないのか…?アスラン」


「……いや、分かるよ」


アスランは笑ってカガリを抱きしめた。

まさかそう返ってくるとは思わなかった。
全部お見通しなのだろうか…。


君に出会って愛情を知って、

初めて自分が存在する意味が分かったことを――――




「…じゃあ、私は誰だと思う?」


今度はカガリが楽しそうな顔で聞いてきた。

えっ?とアスランが返答に困っていると、カガリは得意げに答えた。


「私はもう人質じゃなくて、親交国からの留学生だからな」


「―――…」


その可愛い回答からカガリの愛を感じ、アスランは微笑んだ。

カガリの懸命な努力が…この幸せな未来を築いてくれたから。
それは自分たちの5年分の絆。


でも、それももちろん嬉しいのだけれど…
アスランはしっかり訂正しておかなければならなかった。


…自分を変えてくれた小さな手にキスして囁く。




―――留学生じゃなくて、俺の婚約者だろ?









数年後・・・

プラント最高評議会議長となった男の傍らには、常に優秀な女性事務官の姿があったという。


妻であり親交国の王族出身でもある彼女は、
その笑顔と優れた手腕から夫に負けないほどの人気を集めた。


その後プラント全土から信頼を得た二人は、属国との関係の見直しに着手し…

やがて世界を劇的に改変していくことになる。







END
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