その小さな手を
カガリの部屋は、荷物を運び出すためにドアが開いていた。
すでにダンボール箱がいくつか廊下に出ている。
「カガリ…」
呼びかけてながら入口に立つと、カガリは驚いたように振り返った。
「アスラン…」
その表情は、まるで大人の女性のようだった。
いつの間にそんな顔ができるようになったんだと思って、アスランは小さく笑った。
ふいにアスランは足元にあるダンボール箱のうち、封が閉じられてない箱に目をやった。
中から見えたのは大量の本。
そして…
そのうちの一冊をアスランは嬉しそうに取り出した。
「…あっ…!」
カガリがそれに思わず声をあげる。
“農作物の品種改良”と書いてあったのだ。
「え…と、それは…っ!」
「これ、ぜんぶ本なのか…すごいな」
慌てて弁解しようとするカガリに近づきながら、アスランは部屋を見渡した。
そして、カガリの顔を覗き込んで…両腕で優しく包み込む。
「ありがとう…カガリ…」
「アスラ……」
久しぶりの互いの体温。
それだけでカガリは泣き出してしまった。
アスランは、そんなカガリをあやすように頭を撫でて…穏やかに話しだした。
「本当は…カガリが15歳になったら言おうと思ってた」
「え…?」
「プラントでは15で成人だから」
軽く補足してから、アスランは息を吸って自分を落ち着かせた。
なにしろ生まれて初めて言う言葉で…そして最後にもなる。
カガリ以外に言うことはないのだから。
「一生、俺のそばにいてほしい…。結婚して下さい」