その小さな手を



パトリックとレノアはひとしきりカガリにお礼を述べた後、広いダイニングで食事をすることになった。
一応、4人で。



一応と付けたのはアスランを除く3人だけで会話が盛り上がっているからだ。


パトリックとカガリは、主に世界の情勢・政治・経済について真面目な話をしていた。
祖父と孫娘くらい歳の離れている2人の会話とは思えない。

その内容はもちろんアスランにも分かるものだったが、あえて口は挟まないでいた。



かと思えば、一方でカガリは、レノアとはキャベツの品種改良や料理について楽しそうに話していた。
こちらの方はアスランはさっぱりだった。




…そうして食事は進み、
食後のコーヒーとなったところでパトリックはふと表情を変えた。

“最高評議会議長パトリック・ザラ”としての顔だった。



「カガリ姫、そなたはオーブのエネルギー資源の代わりにプラントに来ているのだったな」

「はい。こちらの身勝手なお願いを聞いて下さりありがとうございます」


人質となっている側が、礼儀正しくお礼を言った。

…カガリは誰より自分の立場を分かっている。
彼女一人が人質に来たところで実はあまり意味はない。
プラントはカガリを無視して、強引にオーブのエネルギー資源に着手することができるのだ。それほど両国に力の差はある。

アスランは、父とカガリの会話を黙って聞いていた。


「今回の件に関して、こちらは姫に感謝してもしつくせない。妻のことだけではなく、反乱軍を掃討できた恩義もある」



「そしてそなたの人柄も才覚も、信頼に足る方だと分かった…」




「オーブ王国に対しこちらからは最大限の便宜を図らせてもらうとしよう。…当然、貴国の資源からは手を引かせる。ご安心なされよ」




父の突然の言葉に、息子は固まった。

想像すらしていなかった言葉だった。



「本当ですか…!」

「貴国とプラントの間には恒久の絆が結ばれることだろう」

「ありがとうございます…!!」


カガリは瞳を輝かせてお礼を言い、アスランはその隣でなおも呆然としていた。


資源から…手を引く…?
プラントが…オーブから…!?


それが意味するものは何か――――

アスランは、母の言葉でそれを突きつけられた。


「そんな歳で国を離れるなんて…さぞかしつらい思いだったでしょう…? 早くお父上を安心させてげなくてはね?」


カガリは、嬉しそうに頷いた。





カガリが・・


オーブに帰ってしまう・・・


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