その小さな手を



数日後、カガリはザラ家の恩人として食事に招待された。
アスランの邸宅ではなく、パトリック・ザラ邸…つまりアスランの実家の方にである。


「うわー、大きいなー!オーブの王宮より大きいかも!」

カガリは目を丸くしながら庭園を歩いていて、その姿はクーデター勃発の際と同一人物とは思えなかった。



ここはアスランの実家だが、今日ばかりはアスランの方がオマケである。
本当はカガリだけが食事に招待されたのだが、アスランが自分も行くといって聞かなかったのだ。

自分の父と母がカガリに会うのだ。そこに自分がいなくてどうする、という思いだ。



「お待ちしておりました。カガリ姫」

執事が出迎え、カガリは素直に歓待を受けた。
こういうとき本当にカガリはお姫様なんだな、と思う。動きが自然なのだ。

今日はめずらしくドレスを着ていて、それも板についている。


「アスラン様も、おかえりなさいませ」

数年ぶりの帰省にも関わらず、自分がオマケ扱いなことにアスランは苦笑した。

でも決して嫌な気分ではない。
これはザラ家がカガリを気に入っているということの裏返しなのだから。



「初めまして。カガリ・ユラ・アスハと申します。本日はお招き頂きありがとうございます」

カガリがそう挨拶をすると、アスランの父パトリック・ザラは自ら握手を求めた。


「いや、本来ならこちらから出向くべきなのだが、わざわざおいで頂いて感謝する。どうぞおかけになって下さい」

「あら素敵なドレス!やっぱり女の子が欲しかったわ」


アスランは父を見てあっけにとられた。
母はともかく…。宇宙一の権力を持つ男が、にこにこ笑って少女に敬語を使っているのだ。

そしてここでもアスランはほとんど蚊帳の外だった。
別に親子仲は悪くないのだが。



本当なら―――
アスランの描いていたイメージでは、2年後、カガリに求婚して婚約者としてここに連れてくるつもりだった。
もちろん両親には、アスラン自身の口からカガリを紹介する形で。

それがまさかこんなことになるとは思わなかった。



結局彼女は、大人しく家の中に納まってたり、黙ってアスランの手に引かれたりする女性ではないのだ。

嬉しい反面、アスランはそれが少し寂しくもあった。

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