その小さな手を
事態が大きく動いたのは、カガリが13歳のときだった。
小さな姫は初めて出会ったころより身長が伸び、少し女性らしさも出てきていたが、
それでも2人で一つのベッドに眠る日課は変わらなかった。
その年は、“前議長派”と呼ばれる反乱分子の活動が目立ってきていた。
現ザラ議長の体制に反対する勢力で、実際にプラント各地で数人の死者が出ていたのだ。
ある日アスランは自宅でキラからの通信を受け取った。
「クーデター…!ついに本部の方まで来たのか…!」
嫌な知らせだった。
今月だけですでに2都市で反乱が起きていたが、ついに首都アプリリウスの本部に来たというのだ。
もちろんその2都市はすぐに鎮圧され大事には至らなかったが…
それでも国政の中枢が攻め込まれるなどというのは非常事態だった。
『大丈夫だよアスラン。前回と同じくらいの規模だから、僕たちがザフトが出れば問題ない』
「頼んだぞ、キラ…」
通信を切って、アスランは息をついた。
キラが大丈夫だと言っているのだから大丈夫なのだろう。
今日は議員の招集もなかったから、本部にはあまり人もいないはずだ。
父も現在アーモリーワンでSPと共にいると、父の秘書官からメールが入ってきていた。
「…アスラン、おかしくないか?」
隣でキラの通信を聞いていたカガリが、疑問を投げかけてきた。
「どうした?カガリ」
「そいつらは、先日ディセンベルやヤヌアリウス支部でも騒ぎを起こしているのだろう?」
「ああ、そうだ」
「支部すら落とせなかったそいつらは、同じような戦力で今度は本部に攻め込んでいるのか」
「……」
確かにおかしい。
常に要人が出入りしている「本部」は、プラント一の警備レベルだ。おまけにザフト軍の基地もすぐ近くにある。
前議長派の戦力などではとても……。
「まさか…こちらは陽動…?」
カガリはうなずいて言葉を続けた。
「前議長派には、あまり時間が残されてないはずだ。前議長の病、そして今、議長選出法の抜本的な見直しがあがっているだろう?」
「…!……」
まだ13歳の少女がこんな言葉をスラスラ発したことに驚いた。
元々こういった感覚は鋭いとは思っていたが…。
それにアスランはカガリに仕事の話などしていない。何故そんなことまで…
戸惑いながらもアスランは、彼女の意見が正しいと納得した。
同時に想像したくもないことが頭の中でひらめいてしまった。
「……っ、もし…、もし奴らが手段を選ばず、短期で決着をつけるつもりなら……っ」
奴らの狙いは現ザラ議長か…もしくは――――
その先は、怖くてアスランには言葉にできなかった。
1秒たりとも無駄にできないことは分かっていても。
代わりにカガリが核心をついた。
「アスランのお母様は、今どこにいる?」
「―――!!」
農業プラント…ユニウスセブン……
そして母は…畑を荒らされたくないと言って、あそこでは護衛をつけていない…!
「…キラ!!」
アスランは叩くように通信機を操作した。
「至急ユニウスセブンに兵を頼む!!本部の方はおそらく陽動だ!」
『え…っアスラン?』
「奴らの狙いはザラ議長閣下の奥方…、っ…俺の母だ…!」