空も風も



「俺も1本…いいかな」


彼女に倣って野花を一輪とって、手を合わせる。



君に聞きたいことはたくさんあった。

なぜ、あの日血まみれの猫を…怖くなかったのか
なぜ周りの人物を拒絶しているのか
独りでも平気なのか
イヤな噂を流されても平気なのか


“私見たわよ?アスハさんがスーツ姿のオヤジと歩いてるの”

…あの噂は本当なのか…


もちろんそんなことなど聞けるはずもない。


「…なぜ、あの日、遅刻の理由をちゃんと言わなかったんだ? 事故に遭った猫を助けようとして遅刻したって…」


今、俺に聞けることといったらこれくらいだった。


「……」

「……あ、俺、君と同じクラスなんだよ。3年A組で…」


悲しいことに、同じクラスの俺のことを知ってもらえている自信なんてゼロで、説明を加えた。



「事実と違うことを言われたらちゃんと訂正しないと…、その…、誤解されるよ」



「………どうでもいいことだ」




小さく、呟いて。
イヤホンをつけて去っていく。

それが、俺と彼女が初めて交わした会話だった。



“どうでもいいこと”


俺はしばらくその場に立ち尽くして考えていた。
どういう意味なんだろう……

俺にはどうでもいいことだという拒絶?
下世話な誤解がどうでもいいことだという意味…?


それとも

何もかもがどうでもいいということ・・・

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