空も風も
数式も化学式も英文法も
分からないものなんて一つもないのに
俺は知らなかった
こんな引力を
「んじゃ、ザラの第一志望はユニウス大学医学部なんだな?」
「…はい」
放課後、俺は先生に進路指導室に呼び出されていた。
高3の9月だというのに第一志望をまだ先延ばしにしていたからだった。
「お父さんと同じ道を歩むってことで、決めたんだな。お父さんも喜んでいるだろう?」
「………」
医者である父親に決められた、進路。
父に言われるまま幼い頃から勉強ばかりやってきて
自分が何をしたいのかなんて考える間もなく用意されていた道。
医者になる意味も見いだせないまま、俺はここまできた。
意味なんてなくても…俺は医者にならなくてはいけない――――
…はぁ。
進路指導室をでて昇降口にきたところで、ひとつ、息を吐く。
時期的にもう迷っているヒマなんてないのは百も承知だ。
それでも決めきれない自分がいた。
「おうアスラン、まだ帰ってなかったのか」
そこにクラスメイトの男女4人が座り込んでいて、声をかけられた。
「ああ、進路指導があってな」
「おつかれー」
「おまえ指導されることなんてあんのか?どこでも行けそうなのに」
「いや…」
そう返したとき、俺は視界の端で金色の髪をとらえた。
彼女だ・・・!