空も風も




空も風も、きみを連想した。





…あの頃、とある絵ハガキが半年に1度くらいのペースで俺のもとに届いていた。
文面は無い。
ただ、走り書きで“Cagalli”とだけ。

生きているよ、という彼女の声に聞こえた。


絵ハガキから読み取るに、カガリは自然災害の起きた発展途上国を転々としているようで、
連絡先も書いてなくてこちらからは何の連絡も取れなかった。

会いたい。
会えない。
最後の愛し合った感覚が、支えでもあったし無限に続く寂寥感の源でもあった。


そして、会いたい気持ちは積もり積もって、形となった。



―――“国境なき医師団”―――




「ママはどこ行ったんだ?」

「ママはね、ケチャップかいにいったよ。なくなっちゃったーってあわててた」

「ははっ、そうか」



大学病院で数年の経験を積んだのち、手にしたパンフレットがそれだった。
紛争、自然災害、貧困などで苦境にある人々を援助する団体だ。


俺の心はもう…
医学生時代からずっと決まっていたのかもしれない。
カガリが残していったあのCDの束を、片時も離さず聴いていたのだから。

ただ、参加するには厳しい審査があるから、そのために時間が必要だった。


機が熟したとき、俺はアッサリ大学病院をやめて海を越えた。



そして―――・・ついに彼女を探し出した。


『やっぱり、君がいないと幸せになれないんだ』

そう言った俺の第一声はちゃんと届いただろうか。


彼女は笑ってくれた。





…ガチャガチャ……バタン。
診療所の裏にある玄関口から、扉の音が聞こえた。


「ただいまー」

「あっ、ママだ!」

幼い娘が金色の髪を揺らして駆けていく。




―――この言葉を毎日言える、しあわせ。




「おかえり、カガリ」








END
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