空も風も
【-Epilogue-】
あの別れから、何年たっただろうか。
指折り数えると両手を2周してしまう。
俺は医学部で死に物狂いで勉強して医者になったが、
数年で大学病院をやめた。
今は無医村に来て村唯一の医者をやりながら、診療所の2階を自宅にして住み着いている。
カガリが気づかせてくれた命の尊さ、命の重さを噛みしめて
ひとりひとりの患者と向き合う毎日。
医者になる意味は、カガリが教えてくれた―――
白衣に袖を通して空を見上げる。
「いい天気だな」
今でも鮮明に思い出せる。
高校3年生の…最後の半年だけが、まるで昨日のことのように。
風になびく金糸の髪も
互いに驚いたキスも
雨に濡れた告白も
一緒に流した涙も
肌の温かさも…
すべてが衝撃的なことだった。
何年たっても鮮やかなままで
消えることのない…一生の宝物。
「パパー」
診療所の入り口から、愛らしい声が聞こえた。
俺のもうひとつの宝物だ。
「あーパパ、またおそらみてるの」
「ごめん。もう見る必要ないんだけど、つい」
空を見上げるのは、高校卒業後からのクセだった。
遥か遠くの国にいってしまったカガリ。
会いたくて会いたくて…空だけは地球の裏側にいてもカガリと繋がっているのだと。
何年もずっとカガリの姿を探すように空を見上げていた。