空も風も



「カガリのおかげで、目が覚めたよ。自分のやるべきことが分かった」


驚きの顔に変わったカガリと、大勢の同級生たち。
俺はかまわず続けた。

…やっと、胸を張って言える。



「俺は…今まで夢も目標もなくて迷ってばかりだったから、カガリの強さに驚いて…憧れた」



「それと同時に、怖かった。こんな情けない俺を君に知られてしまうのが」



「でももう迷わない。医者になって、カガリみたいに一人でも多くの人を助けたい。一生かけて…」



あえてこの場を選んで伝えたのは
学校でのカガリを見るたび…ずっと大声で叫びたかったからだ

俺の好きになった人は、こんなにも素敵な人なんだと



「好きだよ」



「カガリの頑固なところも泣き虫なところも、人の痛みばかり気にするところも、俺が見惚れると怒るところも…」


「っ……アス……!」


琥珀の瞳からは、あっけなく涙がボロボロとこぼれ落ちた。
すべての感情を殺さずそのままに、カガリはくしゃくしゃの顔で俺に抱き着いてきた。



「アスラン……!!」


「行ってらっしゃい、カガリ」


一週間前と立場が逆になったように泣きじゃくるカガリを、ありったけの愛しさをこめて抱きしめる。

俺がふがいないせいで、あの日は君に涙を我慢させてしまったけれど
君はいつも強い信念をもっていたけど
不安じゃないはずがないんだ。


「がんばって…。君なら大丈夫だから」

「アスラン…っ…」

「がんばれ…」



どよめく周囲をよそに抱き合って…
力いっぱいしがみついてくる彼女に、俺ももう愛しさがどうしようもなくなってしまった。


「…ね、カガリ」


耳元でカガリに顔を上げるように促すと、その琥珀の瞳を覗き込んだ。


「ファーストキスの罪は、チャラになったんだっけ」

「ばか…」


カガリが言い終わると同時に、唇を重ねた。

卒業生数百人の絶叫の中で。





―――明日カガリは旅立つ。
たった一日だけ…今日だけ、俺たちは恋人同士になった。


数えきれないくらい
一生分のキスを交わして

強く抱き合って

朝まで離れなかった。


別れのその瞬間まで。








一生戻らないかもしれないと言った彼女に
再会の約束は、しなかった。

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