空も風も



3月、卒業式。
最後の制服を着た。
在校生が作ってくれた赤い花を胸ポケットに差して。


あれ以来一度も会っていない彼女は、そこにいた。

明日発ってしまうから…今日で最後だった。



式典が終わって晴れ渡った校庭に出ると、たくさんの卒業生たちが写真を撮り合っていた。
泣いたり笑ったり無邪気に。


カガリは…
いつものように氷の仮面をつけたまま誰とも話をしていなかった。

今のカガリならきっと、声をかけられても無視したりはしない。
でも今さら彼女に話しかける者はいなかった。



ふいに―――
冷たい強風が駆け抜けて、わっという声があちらこちらで上がった。


カガリの胸ポケットの花が…風に奪われていく。

舞い上がって舞い上がって落ちた花を、俺はカガリより早く拾った。



「あ…」

花を追いかけてきたカガリが、俺に気づいた。


一瞬こわばって。
泣きそうになった顔を懸命に立て直して微笑む。



“お前のおかげで、高校生活が宝物になったよ…”



それは俺のほうだよ…カガリ




「カガリ!」



自分に似合わない大きな声を張り上げると、
俺は5メートルほどの距離までカガリに近付いた。

その声に反応して、周りの同級生たちが次々とこちらを振り返るのが分かった。

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