空も風も
「カガリ!」
意中の人はいつものようにそこに座っていて、俺の声に振り返ると笑顔を見せてくれた。
そのしぐさだけでもう…
何度でも何度でも俺は見惚れてしまう。
「お疲れさま、アスラン…」
「やっと終わったよ」
「どうだった?」
「調子も良かったし、やれることはやったかな」
「そっか」
そう話しながら俺が隣に座ろうとしたら、カガリはなぜか立ちあがった。
両耳のイヤホンを外して。
「?」
俺もつられて、下ろしかけていた腰を上げた。
「お前の受験が終わったら……言おうと思ってた」
「え…」
琥珀の瞳は悲しみの色に翳っていて
俺は反射的に体をこわばらせた。
彼女の深刻な表情が、良くないことだと感じ取ってしまった。
「アスラン…私は、卒業したらこの国を出るよ」
数瞬の間―――
俺はカガリが何を言っているか分からなかった。
まったく想像もしなかった言葉だった。
「まずは東南アジアの…父の知人のところで、ボランティア活動の訓練を受ける。父には、それを条件にやっと認めてもらったんだ」
それから世界中の、災害に苦しむ人々の手助けをしたい
私の力なんて小さすぎて助けるだなんておこがましいけれど…
それでも泣いている人々を1秒でも長く笑顔にしたい
それが私の夢なんだ
いつ戻るかは分からない
一生…戻らないかもしれない
河川敷に冷たい風が吹き抜けた。
舞い上がる彼女の金色の髪を、ただ茫然と見つめながら俺は聞いていた。
カガリが・・・
いなくなる・・?
この・・国から――――
「ずっと前から決めてたんだ」
「両親が守ってくれたこの命を、私も…誰かのために使いたいって…」
カガリは今にも泣きそうな顔で、それでも誇らしい瞳で
俺をまっすぐに見つめてきた。