空も風も
1月中旬。
センター試験が終わり、残すところはあと2月末の二次試験のみとなった。
俺は予備校に行く前に河川敷に立ち寄ることが日課になっていた。
寒さの厳しいこの季節、さすがに毎日とはいかなかったけれど
気候のいい日はたいていカガリはそこにいた。
日当たりのいいところに座って、いつものようにイヤホンで音楽を聴きながら。
「カガリ」
小さく声をかけてそっと俺が隣に座る。
彼女は気づいて微笑むと、俺がいる側の耳のイヤホンを外してくれる。
それだけで胸がいっぱいになった。
たくさん見せてくれるようになった笑顔が嬉しくて仕方なかった。
交わす言葉は少ないけれど、そうしてただ静かに時を過ごす。
カガリの横顔はとても綺麗で、会うたび俺は見惚れていた。
ときおり風になびく髪が顔を隠してしまって、その金糸に触れたくなる。
「こっち見るなよ……」
「だって綺麗だから」
思ったまま言うとカガリは怒ってそっぽを向いてしまったから、それからは言わないようにした。
告白の返事はまだもらえていない。
だから密着して座ることも手を握ることもなく…。
“友人”の距離でただ座るだけ。
髪に触れたい
唇を重ねたい
その細い肩を――――
カガリが好きで
好きで
何度そう思ったかわからないけれど、カガリの笑顔でこれ以上ない幸せを感じたことも本当だった。
高鳴る鼓動の心地よさが続く。
ただ一緒にいられるだけでよかった。
俺が第一志望に受かれば自宅から通える。
離れることはない。
この先も、こうしていられるのだと。
―――正直言って、カガリの進路を詳しく聞く機会ならいくらでもあった。
でも
“医者になるのか、すごいな”
あのまっすぐな瞳で、俺の後ろ暗いところを見透かされるのが、怖かった。
将来への覚悟がなくて逃げていた。
・・・このあと、別れがくることになるなんて思いもせずに。