空も風も
“カガリに、こんなに想ってくれる友達がいるなんて知らなかったよ”
“娘のこと、よろしくお願いします”
優しい瞳をしたスーツの男性は、仕事で寄るところがあるからと立ち去って行った。
カガリと2人きり、クリスマスのイルミネーションの中を歩く。
「す、すまない…。俺、先走ってしまって…」
「まあ、父とは血が繋がってないからな」
自分がしでかしてしまったことの恥ずかしさで、俺は俯くしかなかった。
よりによってカガリの養父だなんて。
もう穴があったら入りたいというレベルではない。
よくよく考えてみれば彼女がそんなことするはずないと分かるのに…
初めて知った“嫉妬”という感情に、平常心を失った。
今まで生きてきて縁のなかった感情だから…。
というか、カガリを好きになってからそんなことばかりだ。
「実の両親の話はしただろう?私が12歳のときアスハ家に引き取られたんだ」
「高1の頃から、進路のことでよく父の会社まで行ってて…それが見られて変な噂になったみたいだな」
“噂”
その言葉に反応してカガリの方をみると、「どうでもいから放っておいたけど」とさらっと付け足した。
やはり彼女は、下世話な噂も嘲笑も知っていたのだ。
でも、その横顔は、強がりなどではなく本当に噂なんてどうでもいいというものだった。
なぜそこまで強くいられるんだ。
カガリを支えているもの・・
―――その強い信念は、何―――?
…ふっ…と、彼女がこらえきれないというように笑みをこぼした。
「それにしても、びっくりしたなぁ」
「!」
言われたこっちは―――その何倍もびっくりした。
カガリが笑っていたのだ。
初めて…
初めて見る笑顔だった。
「お前…っ勘違いであんな血相変えて…!ほんといつも驚くようなことばかりするよな」
「え…」
「面白かったぞ」
どうやら、先ほどの俺が可笑しくて仕方ないようだった。
笑ってくれたのが嬉しいのと、バツが悪いのとが入り混じった心境だ。
彼女が言うように他にもいろいろ心当たりがありすぎる…。
「う…、忘れてくれ、頼むから…」
「いやだ、忘れない」
それは、大輪の花のように
綺麗で輝きに満ちた笑顔だった
・・・こんなふうに笑うんだ
受験生にクリスマスなんて無いと思っていたけれど
その笑顔だけで、今までで一番のクリスマスになった。