空も風も
数日後、身体がだいぶ良くなった俺は、学校はまだ休んではいるが河川敷に行ってみた。
以前…
俺がここに居座ったせいで彼女が来なくなってしまったことがあるから
正直不安でいっぱいだった。
「カガリ…!!」
「わっ」
想い人の姿を見つけ、俺は思わず大声をあげてしまった。
イヤホンをつけていてもカガリは飛び上がるほど驚いたらしい。
「びっくりした」
「ご、ごめん、つい…」
喜びでこんなふうになるのは初めてだった。
カガリの前では、いつも自分でも知らない自分が出てくる…。
「身体は、もういいのか?」
「カガリの方こそ、大丈夫…?」
「だから、お前のほうが重症だろ…」
ある意味本当に重症だと思う。
カガリがここにいてくれて、俺の目を見て話してくれるだけで
心が弾んで仕方ないのだから。
カガリの方は、人との会話に慣れてないらしくまだたどたどしさはあった。
表情も少しぎこちない。
でも、以前のような拒絶が無いことが分かっただけで十分だった。
「あれ、CDケース変えた?」
隣に座ると、カガリが膝に抱えているCDホルダーが違うことに気づいた。
「ああ…。あの日、失くしちゃったみたいで」
「えっ」
「このへんは探したんだけど、あとは救急車や病院かも…」
“あの日”というのが、俺たちが階段から転落した日を指しているのだと分かった。
「じゃあ探すの手伝うよ」
「いや、どうせ飽きるほど聴いたから。もう新しいの聴いてる」
「そっか…」
カガリがひょいとイヤホンを見せてくれたとき、冷たい風が吹き抜けた。
舞い上がる金色の髪の合間に「さむ…」というカガリの声が漏れた。
いくら日中だといってももう12月だということを思い知らされる。
「聞いていい…?」
「カガリは進路、どうするの?」
卒業まで時間がないという焦りから、聞かずにはいられなかった。