空も風も
入院中、クラスメイトが何人かお見舞いにきてくれて、ショックなことを耳にした。
アスハさんが熱を出して学校を休んでいると。
“それでもタオルで拭こうとしなくてね。ずっとあなたの手を握って、名前を呼んでたわよ”
母が言っていた言葉。
結局、12月の雨に長時間彼女をさらすことになってしまったのか。
もともとは、俺が傘を差し出したことが始まりで…
結果的に彼女に風邪をひかせてしまったことが情けなかった。
2日後、俺は退院して自宅に戻った。
それでも体のあちこちが痛くて、ベッドに入っておとなしく数学の参考書を見ていた。
今頃、彼女もベッドで寝込んでいるのだろうか…。
―――ピンポーン
ふいに1階のほうでインターホンが鳴り、母親のスリッパの音が聞こえた。
その、数十秒後。
「アスラン、入るわよ」
開いたドアを見て、俺は驚きのあまり書籍を落とした。
心臓が止まったかと思った。
母の隣に、俯いた金色の髪。
俺の心のぜんぶを占めてしまっている人物が立っていたのだ。