空も風も



次に目が覚めたのは翌朝、病院のベッドの上だった。


「もう、ほんと心配したわよー。救急車で運ばれたって電話きてビックリして…」


そう母親が言った。
どうやら俺は脳しんとうと打撲とすり傷だけで済んだらしい。
でもそれよりも気になることがあった。


「誰か、もう一人いなかった…?」


できるだけ俺は控えめに聞いたが、母はとたんに意地悪い満面の笑みをみせてきた。


「あなた、あの子助けたんだって?」

「え…」

「すっごく綺麗な子だったわ~。やるじゃない!」


ということは。
母さんが駆けつけるまで、彼女は居てくれたのか…。


「ケガはしてなかった…?」

「ええ、ずぶ濡れでドロだらけだったけどね」



「それでもタオルで拭こうとしなくてね。ずっとあなたの手を握って、名前を呼んでたわよ」



…心が震えた。

俺の名前を呼ぶ声
こぼれ落ちた彼女の涙

夢じゃなかった…。


「あんな恋人いるなんて母さん聞いてないわよ!ちゃんと紹介してよー」

「…いや、俺の片思いなんだ」

「えー!?そうは見えなかったけどねえ」



俺はしばらく自分の手のひらをぼんやり見つめていた。

とっさに彼女を抱きしめた、この手を。



次に会ったとき君は・・どんな瞳を向けてくれるのだろうか

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