空も風も
「…少ししたら、止むと思うから」
それだけ言って、彼女は口を閉ざした。
とりあえずの雨宿り先。
電灯もない小さな簡易倉庫で、屋根に当たる雨音だけが響く。
なぜ…
なぜそんなにも君は優しいんだ。
自分は濡れても構わないくせに、他人が濡れるのは嫌がる。
人と関わりたくないなら傘を置いて去れば済むのに
あんなことをした男と2人きりになりたくないだろうに
それでも俺を濡らすまいとしてくれて…。
俺は君だから傘を差し出したけど、君は相手が誰でもそうしただろう。
律儀でまっすぐで、他人の苦を厭う人。
命に対して真摯で・・想像もつかない痛みを抱えている人――――
それが本当の君なんだ
もっと知りたくて、俺はその横顔から目が離せなかった。
彼女はただ静かに雨を見つめていたが、以前の無表情なものとは違っていた。
なんとかして平静を装うような。
細心の注意を払って感情を抑えるような。
彼女から…なにかの感情が見え隠れするだけで俺はもう、抱きしめたくて仕方なかった。
胸を突き抜ける甘い痛み。
でも、俺には彼女のファーストキスを奪ってしまったという重い前科がある。
「……こっちを見るな」
彼女は雨から視線を外さずに、そう言った。
やはり拒絶の言葉。
でも、その声色に以前のような冷たさは無かった。
そのことに気づいてしまった――――
「君が好きだ」
あのとき、口を塞がれて言えなかった言葉だった。