空も風も
12月。
その日は、午後から少し雨雲が出てきていた。
家までの帰り道、いつもの河川敷で少し前方を歩く人物を見つけた。
姿を見るだけで鼓動が反応してしまう人…。
…ポツ、ポツ、と何かが顔に当たった。
「あ…雨」
今日は絶対降るからと、母親に折りたたみ傘を持たされていたことを思い出した。
しかし、前方にいる彼女は傘をさすそぶりもない。
カバンで頭を覆うでもなく、駆け足になるでもなく、そのままのペースで歩いていた。
こんな寒いのに濡れたら―――
俺は走って追いつくと、彼女の肩に開いた傘を置いた。
「おい……お前、傘…っ」
そのまま立ち去ろうとしたが、やはりというべきか彼女のストップがかかった。
「使ってくれていいから」
「バカ…!お前が濡れるだろ」
傘を突き返されたが俺は受け取らなかった。
「別に構わないよ」
「自分の傘なんだから自分で使えよ…!受験生がカゼひいてどうするんだ」
「女の子が濡れてるのに俺だけそのまま帰れないよ」
「私は別に濡れてもいい」
「だめだ」
押し問答しながら傘を押し付け合っていると、雨足が強くなってきた。
それでも俺は頑として譲らない。
いや、強くなってきたからこそ余計に放っては行けない。
「~~~~もうっ! じゃあこっち来い!」
ただただ制服が濡れていくだけの状況で。
先に折れた彼女に連れてこられたのは、河川敷の階段を下りて行ったすぐ先―――草野球で使っているらしい用具倉庫だった。