空も風も



ふいに漏らしたその一言に、ハッとした。

“ファーストキス”


「え……」

「別に信じなくてもいいけどな」


呆れを含んだ溜息をついて、彼女はぷいっとそっぽを向いてしまった。

そこに、初めて―――君の“感情”を感じた。
今まで鉄壁だった氷の仮面に、ほんの少しだけ、感情がこぼれおちた気がした。


こんな顔…するんだ…。



彼女の一面を知れた感動とともに、罪悪感も湧き上がってきた。


「すまない…。その…、一方的に、こんなこと…。本当にごめん…」


謝って許されることじゃないけど
それでも…


「でも、いい加減な気持ちじゃない…、俺は君が――――、っ」


瞬間、すごい勢いで彼女の手のひらが飛んできた。

ひっぱたかれると思ったら、俺は手で口を塞がれていた。
…言葉を遮られたのだ。



「……もう一度言う。私に近付くな…っ」


「……!」


その琥珀の瞳に、驚くほどの激情を見た。
怒りではなかった。

苦しそうな、深い悲しみに押しつぶされそうな……揺れる瞳。



「……君は…本当は」



「本当は…もっと感情を出す人だったんじゃないのか…?」


小さな手が離れたとき、俺は思ったままを口に出していた。



「二度と近付くな…………!!」



俺の言葉を振り払うかのように、彼女は階段を駆け下りていった。




その瞳が…あまりにも苦しくて

彼女が、泣き崩れてしまうかと…思った――――

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