空も風も
しかしその後、彼女が河川敷に現れることはなくなった。
俺が予備校ばかりでなかなか時間が合わなかったこともあるかもしれないが、
快晴の日でも姿は無かった。
単純に、10月下旬で気温が下がってきたから…?
いや。
―――直感した。
俺が隣に座ったからだ。
・・人と関わることを避けるためだ。
「待って、アスハさん」
彼女が授業をサボった日、たまりかねて俺もサボった。
屋上へと続く階段で彼女を見つけて呼び止めた。
予想通りの怪訝な顔。
「俺の名前、憶えてくれた…? アスラン・ザラ」
毎回名乗らないといけないような気がするのが情けなかった。
「最近あそこに来なくなったのは、俺のせい?」
「……なんなんだ、お前は」
呟くように言ってから、彼女はハッキリと聞いてきた。
琥珀の瞳で射抜くかのように。
「なんで私に構うんだ」
なんでなんて…。
そんなのは決まっている。
「君が…気になるから、だよ…」
「なんだそれ。浮いてるやつは放っておけないって?大きなお世話」
自分の正直な気持ちが、なぜか曲がって伝わってしまったことに焦った。
鋭い瞳に圧倒されそうになる。
「そんなんじゃ…。俺は……」
「私は独りがいいんだ。そんな偽善的な価値観は押し付けないでくれないか」
「そんなんじゃない…っ!」
思わず、自分らしくない大きな声を出していた。
感情が高ぶっていく
今まで抱えてきた感情が
「偽善なんかじゃない!俺が、君と話したくて…!」
「え……?」
「ただ、話したいだけで、………」
「……なんだそれ」
・・爆発しそうになる・・
「私に近付くな!」
「―――それでも君に近付きたい場合は…どうすればいいの?」
近付きたい
その想いを口にした瞬間、俺は衝動のままに動いていた。
引力に逆らわず。
唇と唇が重なったことに気づいたのは、数瞬あとだった。