氷姫は残照に熔く
【-Epilogue-】
――国中が賑わった結婚の祝賀ムードも落ち着き始め、少しずつ日常が戻ってきた。
ここは、王宮にあるアスランの執務室。
実はアスランは、この椅子にゆっくり座るのが久しぶりだった。
この1年間・・不作の地や失業者が多い町に自ら赴き、国内を転々としていてほとんど王都に帰ってこれなかったからだ。
ふぅっと息をつく。
そして、書類が折り重なるデスクの隅に、なにか見覚えのある筒があるのをアスランは見つけた。
「これは…」
中から出てきたのは・・愛する人の肖像画。
婚約の顔合わせ前に届いていて、アスランが見ようとしなかったものだった。
まさか…こんなにも本人と愛し合ってから見ることになるなんて。
そこに描かれていたカガリは、ドレスを着て、堅い人形のような表情をしていた。
まさしく“氷姫”。
初めて出会ったときのように。
「なんだかもう懐かしいな…」
アスランは、すでにカガリの表情をたくさん知っている。
これは本当の彼女ではない。
でも…、あの出会いを鮮明に思い出せるから、この絵も悪くないと思う。
「この絵を額縁にいれて、ここに飾っておいてくれないか」
従者を呼んでそう申しつけると、アスランは背もたれに体を預けて目を閉じた。
・・・気を抜くといつもベッドでのカガリを思い浮かべてしまうから、ここではこの絵がいい。
昼間は凛々しい公女の肖像画を見ながら仕事をする。
夜は可愛い愛妻を抱いて眠る。
そんな幸せな日々。
END