氷姫は残照に熔く
カガリのはっきりとした声が大広間に響きわたり、男3人はしばらく硬直した。
特に若いアスランは、何が起こっているのか理解が追い付かなかった。
「な、なにを…!」
「カガリ!そんなことが許されると思っておるのか!」
二国の君主が激高する。
カガリはそんな二人を一瞥することなく、手元にあるメインディッシュ用のナイフを掴んだ。
「では・・・・」
「「!!」」
―――血。
その琥珀色の瞳と初めて目が合った瞬間――視界に散ったのは鮮血だった。
カガリは、自分自身の顔をナイフで切ったのだ。
額から右頬にかけて勢いよく。
「・・・この傷に免じて許して頂けますか」
血痕がテーブルクロスに散る。
カガリの美しい顔から血が噴き出る。
それでもカガリは痛みに顔をゆがめることがなかったため、この血が幻覚なのかと思うほどだった。
呆然としている男3人を置いて、カガリはさっと踵を返して立ち去っていった。
―――今、いったい何が―――
「・・・なんということだ・・」
「カガ・・・」
数拍の間をおいてだんだんと顔面蒼白になる王と大公。
アスランは言葉を発することができず、彼女が唯一そこに残して行った血痕だけを見つめていた。