氷姫は残照に熔く
さらなる驚愕の事実が告げられ、アスランは目を見開いた。
父を斬る。つまりクーデター…カガリが政権を奪取するということ。
そういえば彼女は、3日おきに行商の一団のもとへ行って情報を集めていた――
「アスランから剣術を学んだのもそのためだ。ごめんなさい…」
「そのために剣術…って、まさかクーデターもカガリ一人だけで…!?」
「騎士団はすでに私の手中にある。それでも、私と父以外の血を流すわけにはいかないから…。この顔の傷を、父に切られたことにして―――」
…これが、この傷の2つ目の意味だった。
国が二つに割れて争わぬよう、革命を納得させるためのプロパガンダに使う。
大公のこの2年の暴虐ぶりに、娘を切りつけた殺人未遂がダメ押しとなる。
そして3つ目は、カガリが政権を奪取したとき、ただの18歳の娘ではない威厳を示すためのものだった。
「カガリ……」
アスランは悲痛な表情でカガリの前髪をかきあげ、その傷に触れた。
そしてそこに口づけずにはいられなかった。
カガリが父親をその手にかけようとしていたという残酷な真実。
ここまで一人で追い詰められていたというのに、なぜ自分は父王の謀略に気づけなかったのかと悔やんだ。
「でももうそれもできない…っ。そんな形ですべて奪って、アスランとの関係が許されるはずがないから…」
カガリは何も失うものが無かった。だからこそ、この恐ろしい計画を無感情で遂行できるはずだった。
“氷姫”と呼ばれたそのままの顔で。
でも。
「もうこんなに好きになってしまった…。アスランとの未来を諦めたくないよ…!」
「カガリ・・・!」
―――愛する人ができたから、弱さと不安が生まれる―――
震えるカガリの体を、不安を、かき消すようにアスランは強く抱いた。