氷姫は残照に熔く
カガリは最初からすべて話した。
父と宰相の密談をぜんぶ聞いてしまったこと。
プラント王と手を組んで、大陸西方を侵略する算段だということを。
オーブには豊かな富と糧食、プラントには鉱山がある。
両国が手を結べば、数年は遠征可能な最強の軍隊が出来上がる―――
「で、でも西方とは不可侵条約が…」
「そう。でもそれはプラントと西方諸国との間にだけだ。陸続きでないオーブは加盟していない…」
「…!」
「プラントはオーブ軍の自国通過を黙って見送るだけで、奪った領地の一部をもらえる。悪い話じゃないだろう…?」
アスランは、父なら十分あり得ることだと思った。
この婚約の不可解だった部分がすべて晴れていく・・。
「お父様は!お母様が亡くなってから変わってしまわれた…!誰も暴走を止める人がいなくなってしまったんだ…!」
2年ほど前に、オーブ大公妃殿下は心臓の病で薨去されたという。
そこからオーブ大公の治世が荒れ始めたということは、アスランも噂程度だが耳に入っていた。
「この計画を止めるには、結婚から逃げるしかなかった…」
「カガリ…こんなことをずっと独りで抱えて……」
アスランは初めて会ったときのカガリの様子を思い出した。
ただ瞳を伏せて、口をきかない、人形のような――
あのとき、この細い肩にぜんぶ背負っていたのか。
自国の命運と、両国を敵に回しかねない恐怖を。
「…失踪は一時しのぎでしかないことは分かってた。だからもし、それでもお父様が侵略を強行するなら…私はこの手で斬るつもりだった」
「・・!!」