氷姫は残照に熔く
大広間にて、四者の会食が始まった。
アスランは運ばれてくる料理には目もくれず、向かいにいるカガリだけをずっと見つめていたが、一度も目が合うことはなかった。
彼女は人形のように眉一つ動かさず、瞳を伏せていた。
前菜にもスープにも手をつけない。
なぜか、婚約者であるアスランの顔を一度も見ようとしない・・・
どうして。
「すみません、娘は緊張しているようで」
「いやいや無理もない。しかしこのような美しい姫だとは…。こちらこそ緊張してしまいますよ。なあアスラン?」
「…えっ、あ…、はい」
会食など今まで飽きるほどやってスマートにこなしてきたアスランにとって、何を話していいかも分からないのは初めてだった。
見かねたプラント王がひとつ提案する。
「そうだ、この婚約を記念して、アスランから姫になにか贈らせましょう。宝石でもドレスでも、なにか欲しいものは?」
「……」
カガリはなおも無言のままだった。
「カガリ、答えなさい。欲しいものを聞いておられるのだぞ」
「……」
「カガリ!」
父に強く促された娘は、その表情をひとつも変えることなく、ついに初めての言葉を発した―――
「…この婚約を破棄してほしいです」
「え…」
「私は結婚しません」