氷姫は残照に熔く



どうしようもない喪失感で、体中が冷えていくようだった。
昨夜の冷たい川みたいに。
痛いくらいに抱きしめられた感覚を思い出して、目からなにか零れ落ちそうになるものを必死で押し込めた。
優しい、口づけ…。


…泣いちゃだめだ。
私はアスランを二度も拒絶した。
泣く資格なんてない。

自分で決めたことだ。
私はプラント王家と結婚するわけにいかない、

あんな瞳が澄んだ人を、巻き込むわけにはいかない・・・!!!




「あ……れ…」

膝から床に崩れ落ちたとき、カガリはベッドの下になにかが置いてあることに気づいた。
ふつうに立っていたら気づくことはない場所だった。

・・剣。

ひっそりと、アスランの剣が置かれていた。
王家の紋章入りの・・。

さっきの別れ際、アスランはマントを羽織っていて、そのせいで帯剣していなかったことに気づかなかった。
アスランがうっかり忘れていった・・?




―――ちがう。



己の剣を人に差し出す意味は――――





「アス・・・ラン・・!!」



彼の強い想いが胸を突き抜けて・・涙があっけなく零れ落ちた。



「アス・・っ・・ラ・・」

騎士叙勲の儀は、立場上カガリにとって身近にあるもの。


“私のすべてをあなたに捧げます”






―――バタン!
さっきまで少しも動かなかった足が、彼のもとへ行くためなら簡単に動いた。


「ルージュ!アスランを追って!」


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