氷姫は残照に熔く
暗闇に感謝した。
たぶん俺は…飢えた獣みたいな目をしているだろうから…。
「こんな冷たいの風邪ひくよ、明日の昼間にしよう?」
「…カガリ、もうタイムリミットがきてる。俺は王宮へ帰らなきゃいけない」
意図的に、唐突に話を切り出した。
カガリの動きが止まる。
「え…」
アスランは放り出した杖を再びついて、ゆっくり川の中で立ち上がった。
「で、でもまだ足が…」
「父からもらった猶予は1か月なんだ。俺が帰らないと、国中で俺の捜索が始まる。……きみも見つかってしまう」
「…!」
「明日…俺は帰るよ。今までありがとう」
――俺は卑怯だ。
こんな風に別れを告げて、カガリの反応を見る卑怯者だ。
すでに初対面でフラれたような関係で、まっすぐ告白する自信なんてない。
でも…
最後に一つだけ望みが欲しい。
少しでもカガリが俺を特別に想ってくれているなら・・・・!
「ぁ……」
夜のとばりの中、雲の隙間から洩れる月明りを頼りにカガリの顔を見つめる。
・・・少しだけ、カガリの瞳と声が
切なげな痛みを帯びた
「―――カガリ・・!」
「っ・・・」
杖が、水の中に倒れる。
アスランは思い切り、両腕の中にカガリを閉じ込めていた。
息もできないほどに強く。