氷姫は残照に熔く
アスランがここにきてから2週間が経とうとしていた。
ここに来るまでに費やしたのが2週間。
『どうか、1か月の猶予を頂けませんか』
父王にもらった期限が来てしまったことに、アスランは気づいていた。
申請のない延長を容認してくれたとしてもあと数日・・・。
それ以上はおそらく、国をあげての「王太子捜索」となってしまう。
いつかここにも捜索の手が伸びる。
残された時間は、もう無い。
「はぁっ、はぁっ・・」
「今日の練習はここまでにしようか」
「アスランに一撃も与えられないー!悔しい!」
まだ太陽は真上で明るい。
それでも、今日は気温が高くカガリの運動量も相当なものになっていたため、剣のけいこは早めに切り上げた。
「かなり上手くなってるよ、カガリは」
「そうかなぁ。アスランはいつ頃から剣術を始めたんだ?」
「覚えてないな…。たぶん、3歳くらいか」
「ってことは、15年も!?」
「ああ」
「それなら敵うわけないかー」
そう言いながらも一人で素振りをし始めたカガリを見て、アスランは笑う。
「…15年やっててこんなに楽しいの、初めてだよ」
―――初めてだ。
こんなに笑うことも
胸が躍ることも
こんなに幸せなことも―――
「汗かいたから、このまま水浴びしにいこうよ」
「えっ」
「ほら、アスランも!」
カガリはアスランに杖を渡して立ち上がらせ、すぐそこの川へと促した。
暑くて目の前に川があるのだから、カガリにとって入らない選択肢はない。
アスランが数歩遅れて川へたどり着くと、すでにカガリは服を着たまま膝上まで水に浸かっていた。
「ちょっ・・カガリ・・」
「冷たくて気持ちいいよ、アスランも入ろ!――ぅわあっ」
突然、カガリが足を滑らせてひっくり返った。