氷姫は残照に熔く
翌日、PM5:00。
プラントの王都とはすこし離れた領事館にて、二国間の会食が開かれる。
王宮で行われないのは、まだこの婚約は内密であるからだ。
定刻通り・・
その場にオーブの大公と公女が現れたとき、アスランは生まれて初めて「時間が止まる」という経験をした。
呼吸もまばたきも忘れてただ棒立ちになる。
周りの背景が無くなる。
しばらくは何が起こったか分からないくらい、未知の経験だった。
アスランは、初めて見る婚約者の姿に目を奪われていたのだ。
めったにないまばゆい黄金の髪。
細い首が映える白い肌。
無表情で何も瞳に映していないその顔立ちは彫刻のようで。
ゾクリとするほどの美しさだった。
「……ラン、アスラン!なにをしておる」
「!」
父王に肩を叩かれるまで、アスランは思考を失っていた。
「挨拶をしろ」
「…あ、アスランと申します」
アスランは焦って、身分も姓も言い忘れるくらいだった。
およそ王族らしくもない挨拶。
それに対し彼女……カガリ・ユラ・アスハは、瞳を伏せたまま大陸流の礼をしただけで何も言葉を発しなかった。