氷姫は残照に熔く



「はっ!」

「もっと腰を落として。踏み込む!」

数日後、本当に口頭で剣のけいこが始まった。
小屋の外で、アスランはちょうどいい高さの岩に座ったまま。まだ右足は動かせる状態ではない。

カガリは予想以上に熱心に、汗だくになってアスランの剣を振っていた。
運動がかなり好きなようだ。
感情豊かで、いろんな顔を見せてくれる。

初めて会ったときの、人形のような冷たさとはまったくの別人。
“氷姫”と呼ばれるくらいなのだから、あの婚約の場だけではなく自国でもずっと心を殺していたのだと思う。

今の彼女が、本当の姿・・・。

たとえ強引に王宮へ連れ帰ったとしても、この表情は永遠に引き出せない。


「うん…、やっぱり相手がいないと限界があるね。カガリ、そこの木の枝2本もらえる?」

「えっ?」

アスランは1本をカガリに渡し、撃ち合う構えを見せた。

「来ていいよ」

「でも、まだ体が…」

「座ったままになるけど、上半身は動くから。遠慮しなくていい」

そう言われてもさすがに思い切りいくわけにいかず、カガリは遠慮がちにアスランに撃ち込んだ。
しかし、一合、二合と撃ち合うとすぐに圧倒的な実力差が分かった。
アスランの力も速さも太刀筋も。
座っていてもなお、この強さ。


「すごい・・!すごいアスラン!!」

「!」

いきなり輝くような琥珀の瞳を向けられ、アスランは驚いた。
そして・・・初めて彼女に名前を呼ばれたことに。


“アスラン!!”


その感動が頭の中で響き渡る。
わぁっと全身で感情がひっくり返ったみたいに、嬉しい。

なん・・だ、これ・・・。

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