氷姫は残照に熔く
わずか13平米ほどの狭い山小屋。
ここに出会ったばかりの年頃の男女が、二人きりで暮らすというのはかなりハードルが高い・・。
と思っていたが意外とそうでもなかった。
大きな王宮暮らしでは一度もしたことがないような新鮮な世界。
人との距離が近く、温かみがある。
何をしても咎められたりしない。
王族貴族ではない、一人の人間として生きられる“自由”。
揉めたことといえば、1つしかないベッドの譲り合いくらいだった。
ケガ人が使うべき、女性が使うべき、とお互い主張したが、最終的にはカガリが押し切ってアスランが使うことになった。
アスランはまだ満足に起き上がることもできず、看護が必要なのだ。
床で寝られるよりベッドで寝ていてもらったほうが看護もしやすいという点で、アスランは異論を唱えられなかった。
最初の2日間はアスランはほとんど眠っていた。
過酷な長旅の疲れと、愛馬を失った心労と、大けがで、明らかに弱っていた。
「――あ、目が覚めた?スープがあるからちょっと待ってて」
「・・ありがとう・・・」
アスランは、自分の衣類と包帯が新しいものに変わっていることに気づいた。
自分が寝ている間にカガリがしてくれたのだと思うと、かなり気恥ずかしい。
具体的に想像するとヘンな気持ちになってしまうため、必死で煩悩を追いやった。
「痛みはどうだ?」
「平気だよ」
平気なはずがないのにそんなことを言うアスランに、カガリはスープを温めながら小さく笑った。
でもきっと自分でもそう言うだろうな、と。
そして笑ったあと、自分で驚いた。
笑うなんて・・一体いつ以来だろうか・・・
「これは痛み止めの薬。眠くなる作用もあるから、まだ寝てた方がいい」
「…カガリは、薬の調合までできるの」
「簡単なものだけだよ。こんなところに住んでたら医者にもかかれないから」
「―――・・・」
アスランは改めてカガリの横顔を見つめた。
“氷姫”と呼ばれた公女。
ここで再会した彼女は、“ふつうの女の子”だった。
いや、ケガの処置や薬の調合ができる時点でふつうではないが。
美しい顔に傷までつけて、いつからこの逃亡計画をたてていたのだろうか・・。