氷姫は残照に熔く
骨折しているアスランはルージュの背に乗り、カガリは徒歩で手綱を引く形で、その場所へと向かった。
滑落現場だ。
「そうか・・・・ここで・・」
「私が見つけたときはもう…瀕死だった…。それで、お前を助けたあとすぐ、息を引き取ったんだ…」
アスランはカガリの手を借りてルージュから降りると、剣の鞘を杖にして近づいた。
…大きな土の山と、墓石。
カガリが作ったアスランの愛馬の墓だった。
「・・・・」
アスランは黙してただ立ち尽くし、カガリはその後ろ姿を見ていた。
・・・泣いている―――
「俺は、小さいころから友人が一人もいなくて…、こいつだけだったんだ…」
“友人が一人も”
カガリにも痛いくらいに当てはまる言葉だった。
12歳で乳母夫婦のもとを離れ、城で暮らすようになってからは一人の友人もいなかった。
侍女とは必要以上に言葉を交わすことを禁じられ、為政者として感情を殺すことを命じられ
他家の令嬢たちとは、謀に利用されぬようにと関係を絶たされた。
ただただ孤独に家庭教師から学ぶ毎日。
誰にも心を許せなかった・・・
「おまえを庇うように倒れてた。おまえを助けたかったんだよ…」
アスランの震える肩を見ながら、気が付けばカガリも一雫の涙をこぼしていた。
彼の悲しみが流れ込んでくるようで。
私が逃亡なんてしたから、この人は大けがをして愛馬まで失ってしまった・・・
ごめんなさい・・。
「姫、ありがとう。お墓を作ってくれて…大変だっただろう」
「わっ、わたしは今はもう公女じゃない。それやめてくれないか…」
「……。じゃあ、カガリ…で、いい?」
「ああ。お前のケガが治るまで私が世話をするから、生活のことは安心してくれ」
アスランは移動手段がなくなって、ケガにより徒歩で山を越えることもできなくなった。
カガリはそれに対して負い目がある。
―――こうして、期間限定で二人きりの同居生活が始まった。