氷姫は残照に熔く
「改めまして…、プラントの王太子、アスラン・ザラです」
「……」
「助けてくれてありがとう」
カガリは言葉を失っていた。
このケガ人がプラント王宮の関係者だとは思っていたが、まさか王太子だなんて。
一国の王太子がたった一人でこんなところに来るなんて。
なぜ。
「なんで…ここが」
「ああ、捜索隊はみんな海岸方面にいるから、大丈夫だよ。ここには俺しか来ていない」
「なんでここが分かったんだ…!?」
アスランはここに来るまでの2週間を、簡潔に話した。
まずカガリの乳母夫婦が住んでいたという家。
そこは聞いた通り空き家になっていて誰もいなかった。
しかしアスランはその町で聞き込みを行って、その夫婦がよく木材やレンガを運んでいたという情報を掴んだのだ。
あまりこの家に帰ってきていなかったということも。
アスランは、その木材を運んでいたという方角を聞き、そこから地道に“流行り病が出た集落”の知識と照らし合わせて探してきたのだ。
この先の小さな村で夫婦の名前がヒットしたところだった。
おそらく夫婦は、その村を拠点にしてどこかで隠れ家を作っていたのだ。そして運悪く流行り病にかかった・・・。
「うそだろ……」
アスランの説明を聞いて、カガリはさらに絶句した。
恐ろしいほどに、すべてアスランの推測通りだった。
「本当にきみに会えた…よかった」
恋情のこもったアスランの言葉は、カガリには聞こえていなかった。
カガリはあんなことをしでかして逃亡中の身であるのだから、怖れが勝つ。
「お前はいったい…。なんで…。何しにここまで…」