氷姫は残照に熔く
見知らぬ人間に、突然自分の本名を呼ばれたカガリは、衝撃で思わず後ずさった。
剣の紋章は・・やはりプラント王宮からの追手・・!
「やっと…見つけた……」
「な、なんで私のこと…!」
目の前のケガ人は柔らかく微笑んでいたが、カガリの警戒は解けなかった。
プラントで自分の顔を知る者はほとんどいないはずだ。
今は念のため髪も後ろに縛って帽子もかぶっている。
もし捜索に肖像画が回っていたとしても、こんな古びた格好の、男か女かもわからない人間を・・・一瞬で見破るなんて―――
「顔の傷……残ってしまったんだな……」
「!!」
男の小さな呟きは、すべての謎を明らかにするものだった。
“顔の傷”・・。
この傷のことを知っているのは・・!
この世でたった3人だけ!!
「おっ、おまえ…!まさか……あのときの!!」
彼の濃紺の髪、エメラルドグリーンの瞳は、うっすらカガリの記憶の片隅にある。
あのとき、一瞬だけ、目が合った。
この傷をつけた時に・・・!
「ああ。俺は、きみの婚約者だよ」
「……っ…」
その男の優しい笑みは、カガリの頭を激しく痛めるものだった。