偽りの系譜は
この優しい幽霊のことをラクスやメイドたちに話したいとも思ったが
なんとなく秘密にしておくことにした。
…話してしまうともったいないような気がして。
それに、誰かに話したら二度と霊が現れないかもしれないと思ったのだ。
1日1冊。
その幽霊は本を置いていき、カガリは普段の勉強の合間にそれを読んで感想メモを書く。
最初は幽霊がメモなんて読めるのかなと思ったが、この書庫の本を読んでいるのだから問題なく読めるはず。
実際、カガリが帰り際に置いて行ったメモは次の日には無くなっていた。
幽霊が持って行ってくれたのだ。
こうして、カガリと謎の霊、二人の秘密の交流は1年間続いた。
楽しくて充実した時間はあっという間に過ぎていく。
1年間の留学期間をもうすぐ終えようとしていたある朝、カガリは大広間へ呼び出された。
シーゲルとラクスがそこに座っていたが、なんだかいつもより少し固い感じがした。
「カガリ嬢、そなたに会わせたい者がいるのだ」
「……?」
「そなたは元々、我が国プラントの政策について興味をもち、学ぼうとここへやって来たのだったな」
「はい。12年前の終戦から今日まで、閣下の行ってきた政策はとても素晴らしく、尊敬の念を抱いております」
今から12年前、長年プラントと地球との間で起きていた戦争は終戦を迎えた。
カガリが6歳の頃だった。
オーブは中立国だが、地球軍からの圧力で被害は少なからずあった戦争だった。
戦後、プラントは瞬く間に復興と成長を遂げていった。
その偉業は、この12年間議長の座についているシーゲル・クラインの政治的手腕によるものだと、世界中の人々の知ることとなっている。
カガリは10歳になる頃にはもうプラントという国に興味を持ち、クライン議長のもとで学びたいとずっと留学の希望を出していたのだ。
「今まで黙っていてすまなかったが、事が事なのでな…。悪く思わないでほしい」
「…シーゲル様?」
申し訳なさそうに言う議長に、カガリは首を傾げた。
「実は主な政策のほとんどは、私が発案したものではない。私にはブレーンとなる影の秘書官がいるのだよ」
「えっ…?」
「入ってきなさい、アスラン君」
クライン邸の大広間の扉が開いて現れたのは、黒いスーツを着た男性が一人。
少し長めの藍色の髪の奥には…
顔の上半分を覆った仮面を付けていた。