Red Line 第13話



愛する人に触れているのに、涙が出るなんて

こんな気持ち初めて知った




アスランは…何度こんな夜を過ごしてきたの……?






【Red Line 第13話】







奇しくもそこは、大きなショーウインドウの前だった。
駅前の営業時間が終わったベーカリーショップのガラスに、重なる男女が映っている。



「……カガリ……?」

まだ放心状態にあったアスランは、もう何日も独りで呼び続けたその名を呼んだ。


夢か、もしかしたらもう死後の世界なのか。
それすらも分からないほどに生の実感がなかった。


「カガリ、なのか……?ほんとに…」


抱きつかれていて顔が見えない。
見えるのは、夜でも輝く金色の髪だけ。


―――カガリの甘い香りがする

幾度もこの腕に抱いた香り





「アスラン…」


―――初めて恋人同士になったあの夜―――公園で最初に触れたのはカガリからだった。

あのときと同じように、そっとアスランの手をとる。
それだけでは伝えきれなくて、その大きな手のひらを自分の頬に持っていった。


…なぜ離れていられたんだろう。
こんなに涙が出るほど…この手が愛しいのに。


「アス…ラン………あいしてる」


その言葉は、胸に礫が投げられたようにアスランの意識を覚醒させた。


あの日カガリが去っていったときに止まった時間が動き出す―――
虚ろだった瞳に翡翠の色が戻った。


「カガリ……」


これは現実で
自分のもとにカガリが戻ってきてくれたのだと。


―――でも


でも、これも現実。


「…俺たちは……、血が……」


アスランの震える唇から出た言葉を、カガリは笑顔で遮った。
そして…横のガラスに映る姿に視線を投げた。


「こうしてたら恋人に見えるって…、言ってくれたのはアスランだよ」




「…私を、アスランの本当の恋人にして下さい――――」


「………っ…カガ…、……っ」


もう一度向き直ってはっきりと言ったカガリの言葉とは対照的に
アスランの「カガリ」と呼ぶ声は滂沱の涙に飲まれて音にはならなかった。


そんな2人の姿を、駅前のショーウインドウだけがいつまでも映し出していた。

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