ORANGE 第9話
【ORANGE 第9話】
唇も重ねずに
躰も繋げずに
カガリを一生自分だけのものにする方法なんて
この世に存在するのだろうか
付き合い始めてから指一本触れていない俺が
異端者である俺が
「―――“普通”の恋人同士における次の行事、ねぇ…」
2日後、同僚のディアッカを無理やり御礼の飲みに誘って、アスランは次の助言を頼んでいた。
そのためにはプレゼントどころかクリスマスそのものを忘れていたという失態を吐かねばならなかったが。
ディアッカは本格的に頭を抱え、「もうなんでも俺に聞け…」という状態になっていた。
「大晦日…は深夜になっちまうから高校生を連れ出すのは無理か。なら初詣じゃね?」
「初詣…か…」
年始のニュース番組などで映像では見たことはあるが、アスランは行ったことがなかった。
さっとスマホで調べてみたら、ちょうど自宅から徒歩圏内に神社がある。
「お前…大丈夫か? また考えすぎて型にハマっていってないか。“普通”とか言ってさぁ……」
ディアッカは最後に心配そうに声をかけてきた。
それにアスランが返す。
「“普通”ならいいだろう? 別に背伸びしてトップレベル目指そうとしてるわけじゃないんだから」
「いや、そうじゃなくて…。試験なんかと違ってこういうのって正解なんてないんだよ」
「……?」
アスランは友人の言っている意味が分からなかったが、分からないからこそなんとなく記憶に刻まれた。
それより次は初詣。日付が近い。
元旦はカガリは家族で過ごすだろうと遠慮して、1月2日に初詣に行こうとメールで誘った。
―――この初詣が、結果的にアスランの押し込めていた感情すべてを決壊させることとなる。
「アスラン!こっちだよ!」
「あ…」
待ち合わせの午前10時。
アスランが神社の近くをうろうろしていると、先に来ていたカガリが手を振っているのが見えた。
アスランは10年この町に住んでいるが初めてここに来たのだ。
そして元日でないといってもまだ2日は参拝客で混雑していた。
「明けましておめでとう、カガリ」
「明けましておめでとう、アスラン。今年もよろしく!」
その言葉にアスランは少し面食らった。
こういうとき、そう言うのか…。あまり言ったことがない言葉かもしれない。
花火の持ち方からネックレスのつけ方に至るまで、本当にカガリから教わってばかりだ。
「えっと…今年もよろしく…」
嬉しさと恥ずかしさでたどたどしく返すと、カガリはにっこり笑って歩き出した。