ORANGE 第10話
【ORANGE 第10話】
1月4日、仕事始めの朝。
アスランの手には、カガリから預かったネックレスがあった。
仕事帰りに店に寄って壊れたチェーンを付け替えてもらうためだ。
大事にハンカチ包んでカバンに入れ、仕事用のコートを出して、普段着用のコートをクローゼットに片付けたとき、“それ”に気付いた。
コートのポケットに、お守りの入った包み。健康祈願の…。
初詣のときカガリから貰ったものだった。
正確には、アスランに貰ったのではなくアスランの父親に、だったが。
『アスランの、唯一の家族でしょう? ずっと元気でいてほしいから』
「………」
正直、自分の父親に対して何の感情もないが…、カガリにああ言われては降参だった。
アスランはおとなしく父親にこれを渡す心づもりをした。
……こういうのは後回しにすればするほど決心が鈍るから、ぱっと済ませた方がいい。
アスランはすぐにスマホを取り出して、父の携帯に電話をかけた。
通話ボタンを押すのに少し緊張が走る間柄だ。
しかし、父親の携帯は電源が切られていた。
「……?」
寝ているのだろうか、と実家に電話してみる。
固定電話は留守電になっていて、アスランはそこに「アスランです。また電話します」とだけ入れておいた。
―――父親は、1年ほど前に国会議員から退いているから、忙しくはないはず。
それでも党の上層部や支持者なんかとはやりとりがあって意外と予定が入っているのかもしれない…。
アスランはそう思ってスマホをオフにした。
しかし、次の日も同じ結果だった。
父親と連絡が取れなかった。留守電の折り返しも無い。
アスランは申し訳ないと思いつつも、父が在職中に秘書をしてくれていたオーソン・ホワイト氏に連絡をしてみることにした。
『あ……アスラン様…』
ホワイト氏とはすぐに電話が繋がった。
彼の声が電話口で少し戸惑っていたような気がしたが、突然の電話で驚いたのだろうかとアスランは思った。
「突然すみません。その節はお世話になりました、ホワイトさん」
アスランがお礼を言ったのは、以前アスランがマンションの名義を変えたときのことだった。
「実は父と連絡が取れないので、父のスケジュールをご存知ないかと思いお電話させて頂きました。現在は地方に出張などしていますか?」
『あ……』
秘書は何か言いかけて黙ってしまった。
知らないのなら知らないと言えば済むこと。しかし、そうではなかったのだ。
「ホワイトさん…?」
『……その…』
長い沈黙の後、秘書は重い口を開いた。
それはアスランにとって想像もしていなかったことだった。
『実は、ザラ先生は―――・・・』
しばらくの間、そこに立ち尽くしていた。