ORANGE 第1話



【ORANGE】





あ゛ーーー早く帰ってシャワー浴びたい


アスランが鬱陶しげにネクタイを緩めて速足になったのは、なにも今が梅雨という時期だからではない。
先ほどのなんともいえない不快感が自身の体にまとわりついているからだ。

さっき・・クライアントの女性に、意味ありげに肩をなでられた。
アスランの何もない指を見て「独身なの?」と聞かれたあとに。
思い出すだけでおぞましい。

セクハラで訴えてやろうか。自ら法廷に出て戦ってやる。


現在27歳――弁護士になって3年がたつ。
仕事は順調でやりがいもあるが、こういうときは心底疲れてしまう。
一生女と関わらずにすむ仕事があるのなら、資格やキャリアをすべて捨ててでも転職するのに。




―――そのとき突然、アスランの背中になにか固形物が当たって、思考が中断された。

「!」

「わっ、すすすみません!!」

それと同時に背後から聞こえてきたのは、アルト寄りの声。
アスランの足元にオレンジ色のバスケットボールが転がる。
これがアスランの背中に当たったらしい。


ここは、都内でも最大級の面積を誇る都市公園。
アスランの自宅マンションと駅の直線上にあるから通過すると近道になるのだ。
ジョギングコース、テニスコート、野球場、サッカー場…なんでもあって、バスケットゴールも至るところにある。

すぐそばのバスケットゴールから、“少年”らしき人物が一人、アスランに向かってあわてて駆け寄ってきた。


「お怪我はないですか?」

「いや…別に…」

ぶかぶかのNBAのユニフォームを着て、ストリートバスケをする少年。
別段めずらしい人物像ではないのに、なにか印象的な少年だった。
黄色いユニフォームと…夜でも輝く黄金の髪のせいだろうか。

その少年はアスランの返答にほっとした表情を浮かべると、ボールを拾って、最後にもう一度丁寧に頭を下げた。

「本当にすみませんでした」

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