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ああ、どうしようどうしよう。
今日はバレンタインデイ当日。
先程、早朝からお仕事帰りの妙ちゃんの家にチョコを取りに失礼した。疲れてるところごめんねって言ったらニヤニヤとされながら激励を受けちゃった。それも相まって顔が熱い。顔が熱いよ妙ちゃん。
今の私は彼、斉藤終の部屋の前に立っている。彼は今書類仕事の最中。
邪魔をするのを憚られる、事はあまり無い。割と普段から邪魔をしても穏やかに対応してくれることが多いし。
(…けど……)
彼の部屋に背を向きながら、後ろ手にチョコを握る。せっかく渡そうと思ったのに。普段からのお礼とか……そういう、気持ちで。特別な想いとか……持ってるけど、持ってるけども!
いつものように渡せば良いのに…。理想としては「お世話になってるお礼。お返しはキミのホワイトチョコでいいから」って颯爽と部屋から出るのが一番なんだけど、部屋に踏み込めない時点でもう無理。もう無理だね。
襖をちょっと開けてチョコだけ中に入れるとか……顔とか見られないように……。そうしようかな…渡せないまま一日終わっちゃう気がするし…。
意を決してチョコを持ち直す。貰ってもらうんだ、終くんに。
「…!」
部屋の中から歩く音がする。外に出るらしい。ヤバイ。と思った私は思わず屋根に手を掛けて体を前後に揺らし、その勢いで上へと登って逃げた。
「……」
彼は何の違和感を持たず、そのまま部屋の何処かへ行ってしまった。
「…はあ」
収まらなかった動悸が落ち着いた反面、今ので渡せば良かった、という感情が入り混じる。
いざ、渡そうと思うと急に体が何も動かなくなるし、彼に“そういう想い”を持っているということを自覚する度に顔が熱くなる。
屋根瓦は当然冷たいので直ぐに降りた。彼が席を外している間にチョコを机の横とかに…。
どうしてバレンタインの日にこんなバレンタインギアソリッドをしなければならないのか…。
ちらちらと周りを見渡し人が居ないかを確認して、部屋の中に足を踏み入れる。
…だが机の傍らに、ダンボールの中に積まれた沢山のチョコがあった。
「!」
可愛らしいラッピングされたチョコ達。何処ぞの店で見たデザインの箱達。あれを買った人達の中に、終くんへの“そういう想い”を持って送った人が居るんだろうと思うと、ヤキモチというか、悔しいというか、自分でもイヤなちょっとした独占欲が芽生えてしまう。
「……」
でもこの箱の中に紛れさせちゃえば、私からって思われないし、単なる“ファン”的な気持ちで済ませてくれるかもしれない。
バレンタインなんて今まで意識した事もなくて、正直言って求められたりはしたけどこんな想いであげたことなんてなかったし、好きな人とか居なかったもの。初めてだよ、好きな人が出来て、こんな苦しい気持ちで贈り物考えたりとか、喜んでくれるかなって思ったりしたの。バレンタインデイ、なんて口実で浮き足立った雰囲気で誤魔化して本心を伝えちゃえってなるの、なんとなく分かったかも。見返りとか求めてないもの、自分が好きでやったことだから、いいの。
(…ところで)
このチョコ箱の中に、お値段がお高めのものがあるような。ええ…、これ確かG◯DIVAとかいう奴じゃ…。彼女達の本気度を感じてしまった…。
「……」
不意に、肩をトントンと叩かれてしまう。ひゃあっ、と声を上げて振り返ったら、そこにはきょとんとした顔をしている終くんの姿が。
「ああっ、いや、あの、これは」
「……」
[朝、こんな箱があってビックリしたんだZ]
終くんは、表に出ないからか沖田隊長や土方さんほどじゃないけど、一応モテる人である。そりゃあ、チョコレートがたくさん詰まったダンボール箱の一つや二つ、あってもおかしくないんだ。分からなきゃ。
「…っふふ、凄いなーって思ってさ。ツライねぇモテる人って」
「っ…」
「あ。用事あったけど忘れちゃった。じゃあね」
「…」
「……それとさ」
これ。と言って、チョコが入った紙袋を突き出した。顔を背けて。
「一応、気持ちだけ。別に大したものじゃないけど」
「じゃ」
私は一度も彼に顔を見せず、そのまま部屋を後にした。
「は〜〜〜緊張したぁ……」
廊下でしゃがみこみ、赤くなっていく顔を鎮めるように手で覆う。なんとか…渡せた。出来たじゃん私っ…。でも少し言い方あったかもしれない。ちょっと義理感というかビジネス感があったかもしれない。かと言って本命です!なんて言えないし、悟られたくもないし、逆に丁度いい渡し方って何…?
もう今日一日彼と顔を合わせられないかもしれない、というか顔合わせたくない。食事の時間は外で食べよう。そうしよう。絶対顔見たら顔真っ赤になるし、多分あの人なら後でありがとうって言ってくるかもしれないし、あの特別な想いが乗ったチョコを意識するだけでも物凄く耳が熱くなるし胸の奥が苦しいし。
「……見廻り行こう」
今日はバレンタインデイ当日。
先程、早朝からお仕事帰りの妙ちゃんの家にチョコを取りに失礼した。疲れてるところごめんねって言ったらニヤニヤとされながら激励を受けちゃった。それも相まって顔が熱い。顔が熱いよ妙ちゃん。
今の私は彼、斉藤終の部屋の前に立っている。彼は今書類仕事の最中。
邪魔をするのを憚られる、事はあまり無い。割と普段から邪魔をしても穏やかに対応してくれることが多いし。
(…けど……)
彼の部屋に背を向きながら、後ろ手にチョコを握る。せっかく渡そうと思ったのに。普段からのお礼とか……そういう、気持ちで。特別な想いとか……持ってるけど、持ってるけども!
いつものように渡せば良いのに…。理想としては「お世話になってるお礼。お返しはキミのホワイトチョコでいいから」って颯爽と部屋から出るのが一番なんだけど、部屋に踏み込めない時点でもう無理。もう無理だね。
襖をちょっと開けてチョコだけ中に入れるとか……顔とか見られないように……。そうしようかな…渡せないまま一日終わっちゃう気がするし…。
意を決してチョコを持ち直す。貰ってもらうんだ、終くんに。
「…!」
部屋の中から歩く音がする。外に出るらしい。ヤバイ。と思った私は思わず屋根に手を掛けて体を前後に揺らし、その勢いで上へと登って逃げた。
「……」
彼は何の違和感を持たず、そのまま部屋の何処かへ行ってしまった。
「…はあ」
収まらなかった動悸が落ち着いた反面、今ので渡せば良かった、という感情が入り混じる。
いざ、渡そうと思うと急に体が何も動かなくなるし、彼に“そういう想い”を持っているということを自覚する度に顔が熱くなる。
屋根瓦は当然冷たいので直ぐに降りた。彼が席を外している間にチョコを机の横とかに…。
どうしてバレンタインの日にこんなバレンタインギアソリッドをしなければならないのか…。
ちらちらと周りを見渡し人が居ないかを確認して、部屋の中に足を踏み入れる。
…だが机の傍らに、ダンボールの中に積まれた沢山のチョコがあった。
「!」
可愛らしいラッピングされたチョコ達。何処ぞの店で見たデザインの箱達。あれを買った人達の中に、終くんへの“そういう想い”を持って送った人が居るんだろうと思うと、ヤキモチというか、悔しいというか、自分でもイヤなちょっとした独占欲が芽生えてしまう。
「……」
でもこの箱の中に紛れさせちゃえば、私からって思われないし、単なる“ファン”的な気持ちで済ませてくれるかもしれない。
バレンタインなんて今まで意識した事もなくて、正直言って求められたりはしたけどこんな想いであげたことなんてなかったし、好きな人とか居なかったもの。初めてだよ、好きな人が出来て、こんな苦しい気持ちで贈り物考えたりとか、喜んでくれるかなって思ったりしたの。バレンタインデイ、なんて口実で浮き足立った雰囲気で誤魔化して本心を伝えちゃえってなるの、なんとなく分かったかも。見返りとか求めてないもの、自分が好きでやったことだから、いいの。
(…ところで)
このチョコ箱の中に、お値段がお高めのものがあるような。ええ…、これ確かG◯DIVAとかいう奴じゃ…。彼女達の本気度を感じてしまった…。
「……」
不意に、肩をトントンと叩かれてしまう。ひゃあっ、と声を上げて振り返ったら、そこにはきょとんとした顔をしている終くんの姿が。
「ああっ、いや、あの、これは」
「……」
[朝、こんな箱があってビックリしたんだZ]
終くんは、表に出ないからか沖田隊長や土方さんほどじゃないけど、一応モテる人である。そりゃあ、チョコレートがたくさん詰まったダンボール箱の一つや二つ、あってもおかしくないんだ。分からなきゃ。
「…っふふ、凄いなーって思ってさ。ツライねぇモテる人って」
「っ…」
「あ。用事あったけど忘れちゃった。じゃあね」
「…」
「……それとさ」
これ。と言って、チョコが入った紙袋を突き出した。顔を背けて。
「一応、気持ちだけ。別に大したものじゃないけど」
「じゃ」
私は一度も彼に顔を見せず、そのまま部屋を後にした。
「は〜〜〜緊張したぁ……」
廊下でしゃがみこみ、赤くなっていく顔を鎮めるように手で覆う。なんとか…渡せた。出来たじゃん私っ…。でも少し言い方あったかもしれない。ちょっと義理感というかビジネス感があったかもしれない。かと言って本命です!なんて言えないし、悟られたくもないし、逆に丁度いい渡し方って何…?
もう今日一日彼と顔を合わせられないかもしれない、というか顔合わせたくない。食事の時間は外で食べよう。そうしよう。絶対顔見たら顔真っ赤になるし、多分あの人なら後でありがとうって言ってくるかもしれないし、あの特別な想いが乗ったチョコを意識するだけでも物凄く耳が熱くなるし胸の奥が苦しいし。
「……見廻り行こう」
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