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元人間だけど魔王軍で働いてます。

 この奇妙な馬は、足裏で地表を掴むように踏みしめていた。この大きく平たい足が、砂の上でも沈まない理由なのだろう。おかげで砂の丘も容易に登れる。
 丘の頂上へ来ると、ずっと地平線まで続く砂漠が見渡せた。
 窪んだ砂の大地の中央で、砂の柱が噴き上がった。柱の根本から、巨大な赤黒い物体が顔を出す。
 砂の中から斜めに生え出てきたソレは、砂の柱に劣らぬ、長大さだった。赤黒い球体がいくつも繋がったような、数珠状の肉塊だった。球体ひとつの直径は馬車を三台並べたぐらいだろう。そして、頭部と思われる先端の球体には、ぽっかりと穴が空いていた。穴の内側には、びっしりと牙が並んでいる。
 巨大サンドワームは川を遡上する魚のように力強く、砂漠を猛進していた。跳ねて、暴れながら、一直線に泳いでいるのだ。
 気色の悪さ、その巨大さに、僕は全身が総毛立った。しかしすぐにその思考を振り払う。
 前傾姿勢を取り、手綱を馬に強く叩きつける。砂丘の斜面に張りつくようにして、ワームと平行に、全速で走らせる。幸いなことに、こちらの馬のほうがわずかに速い。少しずつ馬の方向を傾けて、ワームへ近づいていく。
 すると、ワームの進行方向に小さな何かがいるのが見えた。人型のなにか――鮮やかな藍色を纏っている。魔王軍の軍服だ。軍人はときおり砂に足を取られて転がるようにしながら、必死に走っている。
 彼とワームの距離はずんずんと縮んでいた。
 だがこの距離ならば、ワームの鼻先を掠めてあの軍人を捕まえられるだろうと思えた。この駿馬ならば、ワームの追跡も振り切れるだろう。
 僕が再び馬を急かそうとしたとき、軍人が振り返った。
 彼のそばに光が現れる。小さな光点だが、薄暗い死地の世界では十二分に注意を引いた。光が揺れている――炎だ。あの軍人の魔法だろう。 きっと、少しでもワームをひるませて、距離を稼ごうというのだろう。
 炎球がワームに投げつけられる。
 しかし炎球はワームにぶつかると、火の粉となって呆気なく弾けてしまった。
 当然だった。この巨大ワームに比べれば、ゴマ粒ほどの火だった。火傷すら負わせられなかっただろう。
 そして最悪なことに、ワームがさらに盛大な砂飛沫をあげて跳ね始めた。
 怒らせた。
 ワームの速度が、ぐん、とあがった。ぐんぐんとワームの巨大が僕の横を進んでいく。
 ああ、くそ。余計なことを。
 心の中で舌打ちしながら、僕は馬の上で上体を起こした。地を蹴る衝撃と風で振り落とされないために、馬鞍のホーンを掴む。
 もう片方の手で槍を高く掲げた。槍を強く握り、そのまま横へと振るう。
 中空に、きらりと光る霜が現れた。霜が凝縮し、礫となる。槍の刃先の軌跡を描くように宙に並んだ礫が、馬が二度ほど地を蹴る合間に、槍と同等の長さの氷柱へと成長する。
 馬がもう一度地を蹴ったタイミングで、氷柱が空を切ってワームに向かってまっすぐ飛ぶ。
 この速度、この質量の氷柱なら、ワームの分厚い肉にも刺さるだろう。これで少しでもこちらに気を逸らせれば。あわよくば、速度が落ちれば。
 ――――そう思っていたが。
 カンッカカカンッと甲高い音が連続で聞こえ、ワームに着弾した氷柱が砕ける。
「ああ!?」
 硬いものにぶつかった音だ。
 薄暗くて分からなかったが、どうやらあのワームは甲殻を纏っているらしい。
 ワームは氷柱など気付いてすらいないのか、逃げる獲物を一心不乱に追い続けている。今にも、最後の跳躍をして獲物に飛びかかってもおかしくなかった。
 そして、軍人の体力も限界が近そうだった。魔法を行使したせいもあるだろう。走り方が覚束ない。
 もう迷っている暇はなかった。
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