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第一章

顔を洗いにいこうと階下に降りる。真夜中のリビングには、まだ電気がついていた。




ドアを開けると、見慣れた背中があった。
「天晴兄さん…まだ起きてるの?」
私の15歳上の兄、天晴は振り向いた。
「お、天乃か。」
兄さんは、私の様子を見て察したようだった。
「…また、あの夢か?」
ちょっと待っててな、と言って兄さんが用意してくれたのは香りのいいミントティー。我ながらこんなのが出てくるなんてオシャレな家だなと思う。でも実際この夢を見た時にはこれを飲んで落ち着くというのが私のルーティーンとなっているので、ありがたく頂く。
口の中に広がる爽やかなミントの香りと少しの苦味。私の乱れた呼吸も心も、落ち着かせてくれる。
「…落ち着いたか?」
しばらくして兄さんが話しかけてきた。
「うん、大丈夫。ありがとう兄さん。」
兄さんは頼りになる。今日みたいに、私が不安定な時は、いつもいつもそばにいてくれて、そんな兄さんに甘えてしまう自分もいる。そんなことを思っていると、兄さんが眉毛を下げて優しく微笑みながら言った。
「…天乃は、強いな。」
何を言っているんだ、兄さんは。

私が本当に強いなら、こんな夢など見ずに毎日ぐっすり眠れているはずだ。でも、どこまでも優しい目をしている兄さんを見て、否定する気もなくなった。私が強いとか、強くないとか、そんなことはどうでもよくて、ただ兄さんが心配してくれているというその事実が嬉しかった。
「…そろそろ戻るね。」
私がそういうと兄さんは、
「…あぁ、おやすみ、天乃。」
と言った。わたしもおやすみ、と返し、自分の部屋に戻り眠りについた。



顔を洗い忘れたのに気づいたのは次の日の朝だった。
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