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The open Road !
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(※62.326リクエスト)
(※りな様/海軍と海賊設定で最後はハッピーエンド)
(※微裏でお相手マルコ)
(Side U)
小さな頃から海を守る海軍に憧れていた。
海に囲まれた小さな島に産まれたわたしにとって海の脅威は大きく、その脅威からの守り手になりたかったのだ。
『わたし大きくなったら海に出る!海で怪我した人を助けるの!』
『止めとけよ!りななんか海に出たってすぐ死んじゃうさ!』
決意を仲良しの幼なじみに話した時、馬鹿にしたようにそう言われた。
『だってお前女じゃん!女って男より弱いんだから、海に出たら海賊のエジキになるに決まってる』
その言葉にかっとして幼なじみと大喧嘩になって取っ組み合い、転がりながら罵り合った。幼なじみの顔には引っ掻き傷、腕には噛み跡。
わたしは殴られて鼻血を出した。
…子供同士と言えど、やっぱり男と女の差は既に出来上がっていた。最終的にわたしは馬乗りに抑えられ身動きを封じられてしまった。
『解っただろ!…おとなしく島で暮らせよりな』
『……っ!』
あんなに悔しかった事はない。捩じ伏せられた悔しさと力の敵わない情けなさ。惨めだった。闘い方を変えようと思った。わたしにできる事を、わたしのやり方で。
それから猛烈に勉強して体を鍛えて、12の春。資料を取り寄せて海軍に志願した。体力測定はギリギリライン。学力試験は次席で通った。下っ端の雑用から始まり、同期の仲間と打ち解け、毎日訓練で吐いたり倒れたれしながら過ごし、3年後に配属場所が決まった。
『船医見習い』として。
お前は武力としては役には立てない。
だけどりなの知識欲と、怒鳴り飛ばされても食らいつく根性は買っていると初めての上官は笑ってくれた。
見習いと言えど毎日苛烈だった。海軍の船をたらい回しにされ、あっちこっちで怒鳴れ、時には殴られて過ごした。海のゴロツキ共と刃を交えたりもするけど、わたしは足手まといになるので隠れるか逃げるかしろと命令を受けていた。
『船医がやられたら、誰が命を救うんだ?それこそ役立たずじゃねえのか』
『いいか?死なせたくねえなら強くなれ。血の小便出すほど学んで実践しろ』
一人でも生きていて欲しくて、一人でも治したかった。
だから降って湧いた言葉に固まるしかなかった。
「…え?休暇、ですか?」
「そうだ。りなお前、最後に休んだのいつか言えるか?」
「……………えー、……いつでしょうね?」
さっぱり記憶にない。曜日感覚、日付感覚も微妙になる時さえあるのに。首を傾げるわたしに今の上司がため息を吐いて封筒を出した。
「昔と違って、今は何かと面倒でな。悪いがしばらく休暇を取って貰うことになった」
「はあ、そうなんですか」
開封すると中にはある島の資料…というか、観光パンフレットが入っていた。
「何処ですかこれ?」
「地図に載るか載らないかの小島だが、いい場所だ。しばらくここで休養してみてはどうだ」
いかにも素人が作りました!と言ったパンフレット。小島だし観光客も来ないんだろう。でもこの寂れた感じがどこのなくわたしの産まれた島を思い出させる。
「わざわざありがとうございます。では、ありがたく休暇を取らせていただきます」
部下たちもそれぞれ休暇を貰ったらしい。その日のうちにわたしも島を目指して発った。
航海術はある程度解る。島までは自分で船を繰って辿り着いた。
「…うわあ」
遠目に見たときよりも近付くとより一層増す無人島感。船着場に到着してみたが、中型船が二隻と漁船が五隻のみ。
「泊まる場所あるのかな、ここ」
一応簡易テントはあるけどね。船を繋いで鞄を肩に担ぐ。盗られて困るものは命くらいだし、こんな島で物騒な事も起きまい。
「とりあえず店探そ」
地図を見ながら民家の方を目指して歩き出した。
「…なんなのよ、これ!」
歩む足が徐々に早まりわたしは駆け出した。
建物に近いて異変にすぐ気付いた。倒れる人、人だったもの、骨の見える傷に沸く虫。漂う異臭と腐臭。まだ息のある人の呻き声。
「…っ!」
鞄から布を取り出し、薬品を染み込ませてマスク代わりにする。疫病だ。おそらく感染症。
「大丈夫?何があったの?!」
なんだか手放せず持ってきた医療具が役に立つなんて!持ってきてよかった!感染源が解らない為、手袋をつけてから息の有る病人に近寄って問う。
「…たす、けて…」
伸ばされた手は腐って黴たように変色している。
「頑張って!…わたしは医者よ!」
安心して。そう言って手を握る。患者は苦しそうに喘ぎながら、言った。
「…おれ、より…あっちに、子供…助け…」
ごほ、と咳き込むと鱗粉に似た輝く粉のようなものが散る。
「…っ!」
数回咳込んだ患者はそのまま死んだ。
「誰か…誰か居ますか?!」
声をかけながら走る。耳を澄ませて人の声、気配を探る。
「…誰かっ!助けに来ました!誰か居ますか?!」
焦燥感が増す。あの日の夜みたいで。
…夜戦で全滅した時を思い出す。誰も、たった一人さえ助けられなかったあの夜は今も夢に見るほどだ。
「……」
物音がした。慌ててそっちに駆け寄ると何人も男たちが倒れているのが見えた。その奥、岩に背を預ける格好で一人の男が子供を抱えていた。
「大丈夫?わたしは医者です!その子を診せて!」
近寄ろうとすると男が剣を取り出す。
「…近寄るな、…ゴホっ!」
かなり警戒されている。痛みでよく解らなくなる患者もいるし、こういう風に信用されない時もある。
「早く診ないと、その子も貴方も危ない」
「…………」
「助けたいの」
武器は持ってない、と両手を挙げて見せる。わたしは腰に銃も剣もつけていない。鞄にメスとナイフはあるけど。
「……診てやってくれ」
咳き込む口を押さえ男はそう言ってくれた。駆け寄って子供を診る。
「…おねえ、ちゃん…痛いよ…」
「どこが痛い?」
「息、苦し…ゴホゴホっ!」
金色の粉が散る。さっきの患者はこの粉を吐いて死んだ。
「ちょっと我慢してね」
眼球、瞳孔、口内を見て、服を剥ぐ。身体は斑点模様になって変色している。
「~~うぅ!」
腹部の一部が固くしこり、そこに触れると子供が痛みに泣いた。これお腹開かないと駄目だ。
設備がない。器具…ギリギリ。雑菌がやばい。応援を頼めば。…間に合わない。
「君、名前は?」
「…マーレ」
「そう、マーレ。わたしはりなって言うの。…ちょっと我慢してね」
「ーーッ!」
痛み止めを注射器に吸い上げマーレの腹部に刺す。跳ねた身体を男の腕が抑えた。
「ありがとう…すぐに貴方も診るわ、大人しくしてて」
メスで患部を開く。血を拭きながら探ると小型の硬いものに触れた。鉗子とかピンセットとか持ってきてねーっての!!状況の悪さに内心の悪態は規制する『ピー』音が炸裂するレベルだ。異物を取り、縫い合わせ、止血布を巻く。
酸素ボンベがあったらなあ!くそ!手早く出来る限りの1番いい処置を施してマーレを横たえる。
「お待たせ…貴方の番よ、…ええと…」
「…マルコ、だよい」
マーレより病状はマシなのか、マルコと名乗った男にはまだ斑点模様は現れていない。見える場所には。
「動ける?とりあえず服を…」
「あんた、りなと言ったな」
服を脱がそうとする手を掴まれた。
「何で、この島に来た?」
「は?今それどころじゃないでしょう!」
マルコの力は弱っていてもわたしより強かった。
「誰に頼まれた?」
「頼まれた?何の事?」
マルコが私の手を離し、自分でシャツの前ボタンを外す。逞しい胸には斑点模様は見当たらず…大きく刺青が彫られていた。
「…っ!!」
見間違うはずもない、その刺青。四皇エドワード・ニューゲート。白ひげの刺青じゃないか!
「貴様、海賊か!」
「…その反応、あんた海軍かい?」
飛び退いて子供を後ろに庇う。最悪!よりによってあの白ひげのクルー?
「お前がやったのか!この島の人を!」
「俺たちは一週間前この島に辿り着いた。奪った宝の地図を元にな。地図はこの島の洞窟をさしていた」
「それで彼らが邪魔になって殺したの?!屑どもめ!」
吐き捨てるとマルコは可笑しそうに笑った。
「はは、殺すなら俺たちに被害のねえやり方をする。…宝の地図は海軍から奪ったモンだった」
ザマーミロと思って、その直後、血の気が引いた。海軍はこの島の人を巻き込んだって事?まさか!
ごほ、とマルコが粉っぽい咳をする。
「解ったらさっさと子供連れて出て行け。まごまごしてるとあんたにも伝染するぞ」
「…他の仲間はどうしたの。船着場には中型船が二隻あった。帆は畳んであったけど、あれはお前ら海賊のだろう」
こいつが黙ってわたしと子供を逃がそうとする訳ない。だって海賊だ。海の屑、海を荒らす犯罪者だ。人を困らせ奪い取り、犯し、残虐な事を平気でする奴らだ。
「あんたの背後に転がってんのがそうだ」
「!!」
振り向くと折り重なるように幾人も倒れている。島民にしては風貌が悪いなと思っていたけど…こいつの仲間だったんだ。見える肌は変色し、誰一人、動かない。
「……この借りは必ず返す。必ずだよい」
「っ!」
マルコは怒鳴る訳でもなく淡々と言った。死にかけの男とは思えない覇気が噴き上げ、温度が急に下がったような冷え冷えとした怒気に言葉が返せなかった。
「さっさと行け」
ごほ、と、また少し咳き込んでからマルコは岩に背を預けた。わたしはマーレの身体を抱き上げ、マルコの隣に寝かせる。
「おい。何して…」
「うっさい!」
「…は?」
「船から簡易テント持ってくる」
「は?おい、俺の話聞いてたのか」
喚くマルコを無視して船着場に行き、マルコの船からも使えそうなものを勝手に拝借。医療具も少しは残ってて、痛んでないかもチェックして抱えて戻った。マーレに痛み止めを再投与、傷口に改めて殺菌処置。ガーゼを変えて包帯を巻く。
もう一度船着場に戻り荷物を抱えて往復した。
持ってきた簡易テントを組み立て寝床を作りマーレを寝かす。
「……あんた、阿呆だな」
船着場とマーレの側を行き来するわたしにマルコが言う。
「あんたじゃない、Dr.りなと呼びなさいよ」
「じゃあそっちもマルコって呼ぶんだな」
じろりと睨むとそっぽ向かれた。軽口叩いて見せてるけれど、かなり顔色が悪い。具合はやっぱり良くないんだ。
「場所が空いてるから、そこ、寝てもいいわよ……マルコ」
驚いた目がわたしを見る。口を開いて、閉じて、可笑しそうに笑った。
「…手ェ貸して貰えねえか。りな」
「変な真似したらトドメ刺すわよ」
簡易テントの中にマルコを引き入れ横にならせた。マーレとマルコは揃って高熱を出し、その晩わたしは寝ずに看病した。
看病をしつつ、いままで読んだ感染症の事例を思い出していたけど似た症状には思い至らなかった。
「新しい病気?一度にかかるなら空気感染だけど…」
抗生物質を投与してみても、あまり効果が見られない。
「りなおねえちゃん、…のど乾いた…」
「マーレ、お水だよ」
持参してきた水筒を傾けマーレの口に含ませる。少し吸い、またマーレは眠った。マルコを見ると青い顔に赤みがさしていたけど、額に汗が球を結んでいる。仕方ないんで拭いておく。
ついでに汗をかいている首を拭いて、苦しくないように腰布を緩めれば、ふ、と笑う気配がした。
「…襲われてるみたいだよい」
「なっ…!?ふざけないで!」
「…熱いよい」
「ちょっと触るわよ」
全く死にかけのくせに馬鹿じゃないの?海賊って皆こうなのかしら。
マーレの腹部には硬い痼り…何か結晶体のようなものが出来ていた。マルコの体内にも出来ているのかもしれない、と触診する。
「…ふ、はは、くすぐってえよい」
無視して痼りを探す。ヘソのあたりを撫でていた手を掴まれた。
「邪魔しないで。硬くなってる所があったら…」
「悪ィな、せっかく誘ってくれてんのに勃たなくて」
……海賊って本当下品!硬いってそっちじゃないっての!手を振り払ってテントを出た。
「黙って寝てろ!馬鹿!」
簡易食を作って食べる用意をして、湯を沸かす為に火を起こした。見上げると真っ黒な空に星が見える。
街に生者はもう居なかった。助けたい。せめてマーレだけでも。船に戻って海軍に連絡をする事も出来る。一番近くの島に連絡して、助けも呼べるかもしれない。だけどそれをしようとは思えなかった。
「……休暇、か」
この島に行けと言ったのは、わたしの上司…海軍だった。白ひげクルーを嵌めるために島を犠牲にし、そして一度もなかった休暇を与えた。
知らなかった?そんな訳ない。解っててわたしを送り込んだ。何故か?
「あの糞上司…すぱっとクビにでもしろってのよ!…海賊はどうでもいいけど市民巻き込むなんて絶対許さないわ」
…少し前に、わたしの発見した治療法が、物凄く役に立った事があった。それは本部からも勲章を貰えるほどの手柄で、海軍軍医の中でマニュアル化された。手柄と言われるより効率が上がって一人でも多く助けられたらと、そう思ったのに。
「……海の屑、か。どっちが?」
わたしはバッグから勲章を取り出して、焚き火に焼べた。それはパチパチと小さく爆ぜ、焦げ目をつけて燃え尽きていった。
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