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Rapunzel.
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(※64.546リクエスト)
(※トチ猫様)
(※友達・兄弟・恋愛・夫婦などで仲良く過ごす)
(※お相手は白ひげ一家以外の人外)
(※人外についてはモビーディックの人外さんのイメージ)
(※若干ネタバレ注意なのでコラソンを知らない人はお戻りください!)
(Side U/BODY)
昔々、深い森の中に石造りの塔があり、その塔の中には魔女が住み着いておりました。
「ああ、今日も一人。何をして過ごしましょうか…」
魔女は窓から顔を出し溜息を吐きます。いくら魔法が使えても、魔女を恐れ誰もが近寄ったりしないのです。魔女は長い間独りぼっちでした。
「…大変!誰か溺れているわ!」
魔女は森を流れる川の上流から、ニンゲンらしいものが流されてきたのに気づきます。窓から小柄な身を躍らせて、川へと杖に跨りひとっ飛び。
「あのー、ここ足がつきますのよ?」
「!??」
もがきながら転がってくるニンゲンに、魔女は杖の上から声を掛けます。するとそのニンゲンは、は!と気付いたように身を起こしました。
「…まあ!貴方…頭がありませんわ」
魔女は吃驚して目を瞬きました。なんと流れてきたニンゲンには首から上がなかったのです。
「頭が無いのに溺れるなんて不思議な方」
「…………」
「うふふ!…笑ってごめんなさい。私の住居はすぐそこですの。よろしかったらいらっしゃいません?濡れた服を乾かせますわ」
頭が無いのにどうやって魔女のいう事を理解するのか、首なし男は腰を曲げて無い頭を下げました。魔女は魔法の杖を使わず、頭なし男の手を引き歩き出します。
「こちらですわ。うふふ、久しぶりのお客様!わたくしトチ猫と申します。こう見えて魔女をやっておりますの。ええと貴方は…」
「…………」
耳どころか目も口もない頭なし男は、びっしょりと濡れた服のポケットからクシャクシャの紙と水の滴るペンを取り出して、文字を書き綴りトチ猫に見せました。
「…『コラソン』さん、と仰るの?」
コラソンと呼ばれると、そうだと言うように頭なし男はピースサインをして見せました。トチ猫は嬉しくなってコラソンの手を握り足を早めました。
「今暖炉に火を灯しますわ。…って、きゃあ!!」
「!!」
塔に着いた二人は、暖炉の側に座ります。トチ猫は得意の魔法で火をつけようと杖を振ると、何故かコラソンが足を滑らせ暖炉に転がりました。
さあ大変!火は薪ではなくコラソンの着ていた洋服に灯ったのです!
「きゃーきゃー!コラソンさん!」
トチ猫はコラソンの服に杖を一振り。火を消し水をかけました。
「ああ!ごめんなさい!さらに水浸しになってしまいましたわ!」
コラソンは湿った紙に無理やりペンを走らせました。紙を両手で持ってトチ猫に見えるように差し出します。
『もともと濡れてた。気にするな』
「…コラソンさん!」
トチ猫は長い事ニンゲンとの接触がありません。
久しぶりの話し相手、久しぶりのニンゲン。トチ猫は嬉しくて仕方ありまんでした。頭が無いコラソンに対して不信も抱かず、甲斐甲斐しく世話を始めました。
「コラソンさん。服が乾くまでこちらをお召しになって。そのモフモフしたマントは掛けておきます」
「コラソンさん。毛布をどうぞ」
「コラソンさん。…ええと…あ!モコモコの靴下がありますの!これもどうぞ」
『靴下、小さくて足が入らない』
「……そ、そうですよね」
コラソンのメモを見てトチ猫がしょんぼりすると、コラソンは靴下を手にはめ手袋のようにして見せました
「…優しいのですねコラソンさん。ごめんなさい。わたくし、いつもここに独りきりなの。久しぶりのお話し相手に会えて嬉しくて…」
コラソンはトチ猫の頭を撫でました。靴下を手から外し、サラサラとメモを書きます。
『一人は寂しい』
「…はい」
『おれは追われてる。しばらくここに置いて欲しい』
「!!…はい!勿論ですわコラソンさん!」
トチ猫とコラソンが仲良くなるのに時間はかかりませんでした。トチ猫が話すとコラソンはメモに言葉を書いて返事を返します。
「せっかくのお客様ですもの、わたくし腕を振るいますわ!何か食べたいものは…」
『すまない。頭が無いから食事は必要ない』
「そ、そうですわね。えっと、お茶も駄目だしお菓子も駄目…」
トチ猫はコラソンに何をしたら良いのか解らず、どうやってもてなせば良いのかと必死で頭を悩ませます。
そんなトチ猫を前にコラソンはメモに書き記します。
『今のおれには目も耳もないが、言ってることは解る。物やニンゲンが居る場所は感覚で伝わる』
『口も無いが、こうして会話も出来る。おれに構わず食べたいものを作ればいい』
「お腹が空きませんの?」
『大丈夫だ。だけど』
「?」
『ここに置いてもらう間、トチ猫を手伝う。何をすれば君は嬉しい?』
ぴら、と差し出されたメモを見て、トチ猫の目からは涙がポロポロと流れました。コラソンからの優しい言葉が嬉しかったのです。
『悪かった、食べたくない訳じゃねえ!泣くな』
「うふ。悲しくて泣いたのではありまんのよ、コラソンさん。嬉しくて…!じゃあキッチンにご案内しますわ、お手伝いをお願いいたします」
見えなくても解るという言葉通り、頭のないコラソンはトチ猫の涙にオロオロと手を動かしてメモを書きました。メモを握らせ頭を撫で、泣き止むように手を動かします。トチ猫はそんなコラソンを見て微笑むと、涙を拭いコラソンの手を取り暖炉の部屋からキッチンに案内します。
「きゃー!コラソンさん!大丈夫ですの?!お鍋が頭に!」
「きゃー!違いますわコラソンさん!それは胡椒…、うふふ!鼻がないのにくしゃみが出ますの?」
「きゃー!指が!血が!きゃー!きゃー!」
キッチンは大騒ぎ。どうやらコラソンは不運を自らに引き寄せる体質のようでした。
魔法を使えばあっという間に出来てしまうのに、トチ猫はこの大騒ぎが楽しくてニンゲンの様に一から全てを手作りしました。いつもの倍以上の時間をかけ、食卓に二人で着き、一人で食事を食べました。誰かの居てくれる食卓は楽しくてトチ猫はたくさん話をしました。
「あ、あの…客室は、ありませんの。どうぞ私の部屋をお使いになって。大きなベッドなのでコラソンさんも足を伸ばしても転がっても大丈夫ですわ」
『おれは床で寝れる』
「駄目ですわ!石造りなのでとても硬いし冷たいし…だから、あの」
コラソンは少し困りました。女の子の寝床を奪う訳にも行きませんが、トチ猫の申し出を断るのも気が引けたのです。迷った末、メモにこう書きました。
『大きなベッドなら、おれと君で眠れるか?』
「…!はい、はい!大丈夫ですわ!」
途端に顔を明るく綻ばせたトチ猫を見て、コラソンはまた少し困りました。頭が無いとはいえ自分は男で、トチ猫は女の子だからです。
トチ猫の頭を撫で、ないはずの口から溜息が出ましたが、トチ猫は気が付きませんでした。
…そうして、塔の中での二人の生活が始まったのでした。背の高い塔と大きな森の中で、二人はいつも一緒に過ごしました。春には花を愛で、夏には木漏れ日の森を手を繋ぎ歩きます。
「コラソンさん!見てください、この樹は桜と言うんですのよ。薄紅色で綺麗でしょう?」
『ああ。まるで雪のようだ。走ると転ぶぞトチ猫』
「ふふ、手を繋いでいますわ。転ぶ時は一緒です」
『この魔法のペンは便利だな。空中にもどこにでも文字が書けるし、手で消せる。いつでもトチ猫と話せる』
コラソンの胸にも、トチ猫の胸にも、いつしかお互いに対する淡い恋心が生まれていました。
秋には落ち葉を集め薪を割り、冬には二人で雪だるまを作ります。コラソンは寒そうに震えるトチ猫に自分のモフモフのコートを掛けてあげました。…ですが勢いよく雪原で滑って転び、自分は雪だるまになってしまいました。
「きゃー!コラソンさん!今すぐ助けます!」
『冷たいが、おれにも頭が出来た』
「そんな事を仰っている場合ではありません!お風呂に行きましょう!」
ガタガタと震えながら文字を書き、ピースサインをしてみせるコラソンの冷え切った手を掴み、トチ猫は塔に走りました。
魔法の杖を一振り。お風呂場はあっという間に温泉に姿を変えました。ビショビショに濡れたコラソンの服を脱がす手伝いをしながら、トチ猫はくしゃみをしました。
「…っくしゅん!」
『トチ猫も入るか?』
「え?」
『感覚は伝わるが、おれには目がないから見えはしない。トチ猫が風邪を引いたら嫌だ』
「…はい!では…お、お背中、お流ししますわ!」
ぽ、と頬を染めトチ猫は答えました。
タオルで身体を隠しつつ、二人は温泉に入ります。冷えた身体は温まり、白い湯気の中、どちらからともなく距離は縮まります。コラソンはトチ猫の手を握りました。
「…あ、の。コラソンさん…」
『良かった。もう冷たくない』
片手でペンを操りコラソンはお湯に文字を書きました。ゆらゆらと揺れ、その文字が消える頃。
…白くけぶる湯気の中、二つの影は一つに重なりました。
「お風呂から上がったら、ご飯にしますわね。またお手伝いしてくださいますか?」
『ああ。トチ猫を手伝うのは楽しい』
「うふふ。怪我しないように、してくださいね」
四季が三度巡り、二人はまるで家族の様に、恋人の様に、あるいは兄妹の様に過します。戯れ合い助け合い、寄り添って眠り、想いを伝えるためにそっと抱き合いました。
…そんな毎日が続いていたある日、コラソンは異変に気がつきました。追っ手の気配を感じたのです。そしてそれは、この塔を覆う森の中からでした。
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