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ピーちゃん、あのね。
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(※夏の思いつきリクエスト受付)
(※リオ様/ある日、森の中。の二人で)
(Side U)
『各種薬草調合イタシマス,御用命ハ下記連絡先マデ』
新しい大きな街に着くと私は決まって総合案内所へ求人を出す。
野山を歩きて素材を集め野宿をしては宿代をケチり、山賊や物取りと戦い逆に金銭を剥ぎ取りと、お金と仕事を求めて街から街へと旅をするには訳があった。
そう、憧れのマイホーム!!!!
小さくても素敵な我が家と田畑を手に入れ地に根を下ろし…その町の頼れる薬屋さんとして調合をして暮らすのが夢なのだ。
今回は海岸沿いの大きな街。人も物も溢れるほどの賑わい。街によって移動費ぐらいしか稼げない時もあれば三日で三ヶ月分の貯金ができた時もある。
さて今回のご依頼は?待ち合わせに指定されたカフェへ足を運ぶ。
「…はあ、つまり海賊船で薬剤補助をして欲しいと」
「そう!ウチのナースが戦闘の飛び火食らって片足がちょっとアレで」
何それ怖い。アレって何どうなったの?取れたの??やめて。
連絡をくれたのは変な柄シャツのリーゼント頭。目立つ大男でサッチと名乗った。
「約三カ月予定、週休二日、三食おやつ付きに狭いけど一人部屋利用可。お給料このくらい」
チャラい見た目とは裏腹にまともな契約書を提示し、その金額に絶句する。
海賊船に乗るのは怖いし嫌だ。しかしこの破格というか引くほど良い条件を断るのは惜しい。
「…失礼ですけど身の安全って保証ありますか」
「戦いになったら奥に引っ込んで貰うし怪我した場合は特別手当支給します」
「…大変失礼ですけど男所帯ですよね」
「なんと医療班は九割女の子!困ったら助けてくれると思うぜ」
困ったぞ断る理由がない。悩む私にトドメとばかりにサッチさんは笑顔で言う。
「食事の美味しさには自信があるよ。それにウチの書庫かなりデカイから世界の文献も読み放題!どう?」
「よろしくお願いしますっ!」
がっちりと握手を交わし交渉成立。素材の詰まった鞄と身の回りの物、調合道具を持っていざ海賊船へ。
「…白ひげの船とか聞いてない…」
私でさえ噂を知ってる海賊は生で見ると恐怖の塊でしかなかった。
甲板で船長にガクブルしながらご挨拶すると、とりあえず隊長たちと医療班の女の子の名前と顔を覚えりゃいいと仕事に放り出された。
「ありがとうリオ。このお薬塗ってから腫れなくなったわ」
「本当?良かった!…ごめんねちょっと臭いがきつい薬で…」
気がかりだった『戦闘の飛び火を食らった』ナースの容態は義足の損傷。今は整備に出しスペアを使っているけれど接合部が擦れて痛むらしい。
「いいえ、この草の香りはなんだか落ち着くわ」
市販品と違って私の薬は問診や触診の手間がかかるが、個々に合わせて作れる分だけ効果が出やすいと自負している。
「リオ…この前の二日酔いの薬、また頼む…」
「ヘドロみたい味がすんのに何故か効くんだよなあ」
船長を筆頭に飲むわ飲むわ、騒げ歌えの翌日なんて死屍累々で二日酔いの緩和剤に注文が殺到。素材が底をつくほど作った。
「どうぞお大事に、よく休んでくださいね」
よく効くなんてとびきりの褒め言葉に頬が緩む。
彼らが言う『軽い小競り合い』に心底ビビり、ナースたちとメイクや化粧の話で盛り上がり、サッチさんの作る料理に驚愕したりと私は海賊船での生活に少しずつ馴染んでいった。
「…あの。ここってペット飼ってたりしますか?」
「禁止はされてねえな。魚とか海鳥とか手名付けてる奴も居るし」
昼ごはんの食器を片付けつつサッチさんに尋ねると肯定の言葉が返る。
「それじゃあ甲板に居たあの不思議な青い鳥もペット?餌とか勝手にあげたら怒られるかしら」
「ブッフォ…ッ!!」
突然笑い出したサッチさんにドン引きした。しゃがみこんでブルブル震えてる。
「うはは、ははっゲホ!…ここが調理場じゃなきゃ転げ回ってたぜ…ひー、苦しい」
「何でそんなに笑うんですか」
「いやー、うわははは!何でだろうなァ?ところでリオちゃんはマルコが嫌いだろ」
涙まで浮かべて笑いの余韻を残しつつサッチさんは疑問じゃなくて断言をする。図星のど真ん中を刺され咄嗟に言葉が出なかった。
「…嫌いというか苦手、ですね。私は結構適当なので。いつもご指導いただいてます…」
そう。自由を好む海賊の乗組員とは思えぬほど、マルコさんは厳しかった。
在庫管理に情報収集、利益計算に至るまでどこかの企業の社員でも通用するレベル。私が調合した薬に対してもマルコさんは元となる草木に菌類、素材の説明を求め変なものが入ってないかのチェックが細かい。
「あの鳥を飼っているのはマルコだよ。餌やりするならりんご持って行っていいよ」
あの可愛い鳥ちゃん、マルコさんの飼い鳥なのか…近寄っても蹴られたりしないよね?
サッチさんにお礼を言って甲板に顔を出すと、件の鳥はまだそこに居た。マルコさんの姿がないのを確認してから鳥の嫌がらない範囲まで近寄って言葉をかける。
「…ええと、こんにちは」
「………」
「燃えてるみたいで綺麗な毛並みね」
「………」
悪意がないと伝わればと思いながら言葉をかけ、マルコさんに飼われているんでしょ?と聞いたところでイゾウさんが甲板に転がって痙攣した。
「ぶっは、ははは、ゲホッ…やめろリオ!俺を殺す気か?!」
「えっ大丈夫ですか?!イゾウさん!急にどうしたんですか?!」
無反応の鳥と違って呼吸困難が心配になる程イゾウさんは笑い続ける。
「ゲホゲホ、苦しい。あ、あのは鳥そうだな…ぶくくく…ペットと言えなくもないな」
「勝手に餌をあげたら怒られますか?」
「…さァどうだろう。やってみてくれないか?俺も見てみたい」
掌にりんごを乗せ差し出すと青い鳥は私の顔をチラ見してから嘴で器用にりんごを食べた。
ゲラゲラと品のない笑い声を上げても美しいイゾウさんは鳥に向かって良かったなと話しかける。
「…笑い過ぎて腹が痛い。しかしリオ、お前マルコが嫌いだろう?」
「何ですか藪から棒に。先程サッチさんにも同じことを言われましたけど、そんなに顔に出ていますか」
本人不在なのを良いことにそれとなく同意し、両手で自分の顔を揉む。サッチさんに言ったのと同じく嫌いなわけではないと伝えると、意地の悪い笑みでイゾウさんは煙管をくるくると回した。
「そうか。その鳥はよく甲板にいる、気になるならまた来るといい」
「…怒られませんか?」
「問題ねえさ、なあ?」
人に言うのと同じくイゾウさんが鳥に話しかけると、鳥は尾羽を軽く振った。
「すごい!お話しできるんですか、この鳥って賢いんですね!」
燃えてるみたいな毛並みだし普通の鳥じゃないんだろうな、エドワード船長の船で飼うくらいだし。
イゾウさんのお墨付きを貰った私は、その日から頻繁に甲板に通っては鳥と接触を試み、餌付けに勤しんだ。
「…はぁ。ピーちゃんあのね。またマルコさんに睨まれちゃった。私の事が本当に嫌いみたい」
いつも同じ手摺りにちょこんと乗っている鳥に抱きついてお腹に顔を埋める。猫吸いならぬ鳥吸いである。
鳥の名前を誰に聞いても教えてくれないので『鳥といえばピーちゃん』と単純に呼んでみると尾羽を揺らし返事をしてくれた。飼い主のマルコさんには悪いけどこっそりピーちゃん呼ばわりさせて貰っている。
「…すー、はー…ピーちゃんは鳥だけど良い匂いするねえ、癒される~」
海は陸と違って獣の匂いが全くしない。動物との触れ合いもないせいかピーちゃんが可愛くて仕方ない。
「きっとマルコさんが毎日洗ってるのね。あの人神経質そうだから絶対そう」
尾羽が動き私の頭を掠める。躾けられてるのかピーちゃんは鳴かない。その代わりに意思表示は尻尾の動き。
「…慰めてくれるの?ありがとう!大好き!」
飼い主に似るなんて誰が言い出したんだろう?ピーちゃんはこんなにも優しいのにマルコさんは言葉は辛辣だし態度もそっけないし厳しい。
仲間を家族と呼ぶくらいだし他人の私は邪魔者みたいなものなんだろうな。
「もう戻らなきゃ。また来るね、ピーちゃん」
休憩終了十分前のアラームが鳴る。
言わずもがな、マルコさんに持たされたものだ。大きな海賊船は船内も広くって最初は迷子になったけど、今は配置を覚えたので最短距離を全力競歩である。
「…お疲れ様です」
医務室へ戻るとそこにはすでにマルコさんの姿があった。
「ご苦労さん」
時間前に戻ってきたのに何で睨むの?!怖いよお…!こそこそと自分の席に着いて作業の続きに取り掛かる。
ナースたちも時間内に揃い各々の仕事をするが戦闘が無ければ平和なもので、医療器具や薬の通販カタログを囲んで検討会を始めた。
「ねえリオ!貴女は欲しいものないの?」
「一緒に頼めば送料もかからないし、どう?」
冊子を覗いてみれば化粧品と服飾の写真が並ぶ。お洒落のことはさっぱりわからないけれど女同士でのおしゃべりは楽しい。
「南の方の島の宝石って彩度が高くって良いわよね」
「わたくしは冬島の溶けぬ結晶ピアスがイチオシですわ。同じ形が一つもないと言うのが素敵」
「やっぱり春島の七彩ドレスでしょ!動きに合わせて変わるなんて最高」
「…どれも凄いお値段ですね」
ゼロが一つどころか二つは多いのでは?写真だけでもキラキラして見える品々はとてもじゃないが手が出ない。
「…医療品の必要分はもうまとまったのかい」
「!!」
会話に混ざった声に肩が跳ねた。あっハイ仕事!仕事中ですよねすみません喋りません!!
貝のように口を閉じ、書庫で調べ物をしてきますと医務室から逃げた。
「タオル!傷の具合はどう?」
「リオ!…いやあの、僕は大丈夫だよ」
「うそ!隠さないで、どうせまた転んだか切ったか打ち身作ったかしてるでしょ」
海賊団に入ってまだ長くないと言うタオルは戦闘でも日常でも、怪我の多い青年だ。
彼は医務室の空気が苦手だと怪我をしても治療に来ないから、心配でよく声をかけては身体チェックをしている相手の一人。
「はい、化膿止めと湿布。大きい傷はないみたいで良かった」
「いつもありがとう、リオ!それじゃ僕は雑用に…イテ!」
手当てが終わったそばから木箱の棘に刺さり、私はタオルの掌から棘を抜く。
「…気をつけてね」
携帯用に幾つかの絆創膏と軟膏を渡して仕事に送り出した。手当てをするときの申し訳なさそうな顔が可愛いなあ、大怪我しないと良いなと淡い想いが芽吹く。
書庫で見つけた貴重な薬草辞典を熟読しメモを取り、今日もマルコさんの厳しい目に耐えてお仕事終了。
「ふー、ここのご飯って本当に美味しい…ん?」
サッチさんの美味しい夕飯で疲れを癒やし部屋に戻ると、ドアの前に紙袋が置いてあり開けると靴が入っていた。
そんなに高くないヒールのパンプスは海色で防水素材のようだ。私が貰って良いのだろうか?と足を入れてみればサイズはピッタリ。
「??」
首を傾げつつ袋を持って部屋へ。誰がくれたのかメッセージカード一つない。
袋のまま部屋の隅に置いて眠ったが、それからも数日おきに紙袋が部屋の前に置かれ、中には新品の服やアクセサリーが綺麗にラッピングされて入っていた。
「…これ雑誌で見たような…?」
もしかしてタオル?常日頃の手当の事を気にして贈ってくれたのかしら、と本人に聞いたけれど知らないと首を傾げ、代わりにいつものお礼にとお花をくれた。
「ピーちゃんあのね!タオルがお花をくれたのよ、ビスタさんに頼んで分けてもらったんですって」
棘がついたままのバラを照れながら、傷のついた手で差し出された時は本当にときめいてしまった。
「…きゃー!ダメよピーちゃん!バラは食べられないのよ?!ぺっしなさい!」
私の持つバラに噛み付いたピーちゃんを慌てて引き離す。変なものを食べさせて何かあったらマルコさんに殺されかねないよ!
「良かった、怪我してないね。お腹すいたの?」
ピーちゃんの無事を確かめてから散らばったバラの花びらを集めポケットに入れ、私は部屋に戻って押し花にした。
タオルがまたお花をくれたら良いななんて思いつつ、押し花の栞を時々眺めて仕事に精を出した。
→(Side MARCO)