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極楽鳥花。
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(※160,000リクエスト/ヴェル様)
(※♀なまえは『ハナ』)
(※自他に厳しい一番隊隊長)
(※そんな隊長が本気の恋に落ちる)
(Side MARCO)
あり得ない。俺はトイレで頭を抱えていた。
…事は数時間前に遡る。
「…!」
「悪いな、ちょっと待ってくれよい」
ベッドの上、写真を見て選んだ娼婦と二人。邪魔をするように電伝虫の音が響く。愛撫の手を止めて通信を受けると隊員の一人の声が耳に届いた。
『マルコ隊長、今どこですかー!』
鼓膜が痛むような音量に思わず耳から離す。こいつは昔っから俺を苛立たせる天才だ。
「~~うるっせえ!用件を言えよい!」
情けない声が現状を説明し、その阿呆さに溜息が出る。その位は自分で何とかしろ。わざわざ俺に連絡よこすな。島への上陸中、久し振りの自由時間、航海中に溜まった男がナニしてるか重々承知だろうが。
文句は山程あったが、俺は通信を切って服を着直した。
「…お帰りですか、不死鳥さん」
「…悪いな、途中だが急務で。代金は置いて行くよい」
「残念。せっかく買ってもらえたのにな」
中途半端に放り出された娼婦は肩を竦めた。不満そうな顔や仕草をしない事にほんの僅か後ろ髪引かれた。
「こっちも残念だよい。出来の悪い阿呆がいるんで、手がかかってならねえよい」
代金を少し上乗せして、キスをして別れる。やり部屋を出て息を吐いた。安堵で。
「…はぁ、また駄目かい。どうすりゃいいんだ」
宿を出てすぐに不死鳥に姿を変えた。青く光る炎は目立つが、あいつからも解りやすくて良いだろう。
「もう二ヶ月になるってのに…、何で勃たねえんだよい」
誰も聞いていないのをいい事に俺は呟く。決して禁欲している訳じゃない。女を見ればそれなりに欲は湧く。だから娼婦を買ったんだ。今回も。
写真を見たり、街頭の客引きで好みの奴を選んでベッドへ。それなのにいざコトに及ぼうとしても肝心の股間は反応を示さない。
『すまねえ、ちょっと…』
『…良くありませんでしたか?』
焦った。今までこんな事なかった。相手の女は昂ぶっていくというのに俺の中心は冷えたまま。手でされても、しゃぶられても駄目で、相手も俺も途方にくれた。
下手と罵った訳じゃねえのに泣き出されて、舌打ちして更に泣かれた事もあった。
「…居た、あれだな」
俺を下らない用事で呼びつけた阿呆の姿を捉え、路地裏に降り立つ。
空を見て既に気付いていたそいつは両手を大きく振った。呑気な笑みを顔に浮かべて。
「…いたい!酷い!」
「うるせえよい、この阿呆が!」
不死鳥から人型に姿を変えつつ着地。と、同時に俺を呼びつけたハナの頭を引っ叩いた。
「何かあったらすぐ連絡を寄越せって、マルコ隊長いつも言うじゃないですか。わたしはちゃんと言う事聞いてるのに叩くなんて…オヤジに言いつけますよ!」
「言いたきゃ言え。…とりあえずソレから手を離せよい、ハナ」
俺は慎重に、かつ油断せずにハナと対峙する。 ハナは少し首を傾げた。
それからやっと思い出したように、自分の足元を見る。
…血の雨の中で踊ったような赤い汚れ。所々に人だったらしき破片が散らばって、ハナの手には変に捻じ曲がった片腕が握られていた。
「こいつら…わたしの刺青を見て、何か絡んできて、挙句に悪口を言ったんですよ」
誰と言わずとも解る。オヤジのだろう。彼女が死体を作るのに値する理由だ。
俺たちの誇り。侮辱には死を。チョロそうな見た目のくせに頭のネジがぶっ飛んでる。
「そうかい。自業自得だねい。そいつらも、ハナも」
髪の毛も服も靴も真っ赤になっている彼女の姿を指摘する。ぺ、と腕を放り投げて彼女は口を尖らせた。
「どこか宿は確保してんのかい?服の替えは?」
「…宿は取ってないです。お酒飲んでいい気分のところでウチに帰るつもりだったから。…あ!大変!酒場のお代踏み倒してきちゃった!」
律儀に払いに戻ろうとするハナの腕を掴んで止めた。店主が卒倒するだろう。
「その格好で戻るな!それこそ迷惑だろい!…俺の取った宿があるよい、とりあえずそこで血を落とせ」
血塗れ女連れて歩くのはかなり嫌だったが、真昼間に練り歩くよりマシだ。太陽が沈み辺りは夜の気配を漂わせている。
「…っとにお前は毎回毎回、俺に迷惑かけるのが生き甲斐なのかい?仕事は出来ねえはいつまで経っても覚えはクソ悪いわ…目を離すとサボってやがる。バラバラミンチの死体の後始末、どうする気だよい」
「サッチ隊長は『ハナの豪快な魚捌きのおかげでつみれが作りやすいわ』…って褒めてくれますよ。えへへ!」
それは褒めてんのか?ハナの阿呆な言動に苛立ちは募るばかり。しかも少し目を離すとすぐこれだ。手がかかるったらねえよい。
「…おい、あまり寄るな。俺の服に血がつくだろい」
ハナと距離を開けて宿まで行き、フロントで鍵を要求した。
「?!…お、お客様、あの…」
「105号室の鍵を。予約していたマルコだよい」
フロントの奴は血塗れのハナを見てたじろいだが、俺たちの刺青を見て何も言わなかった。賢明だねい。
「スリッパ貸してくれた。親切だね」
「汚されたくねえだけだろ」
「…うわ!広っ!マルコ隊長こんないい部屋一人で使うの?!さすがお金持ってますね…あ痛!」
部屋に入ったらベッドに直行されそうになったので蹴った。何で部屋借りた俺より先にベッドに寝ようとしてんだよい。
「さっさと血を落とせ。もう一発いくか?」
「足癖悪いですよ隊長!」
文句つけつつも彼女はバスルームに消えた。水音がすぐに聞こえ呑気な歌まで耳に届く。痛むこめかみを抑えて鞄に手を突っ込んだ。
「…ああ、俺だよい。頼んでいた調べモン、終わるかい?」
電伝虫でウチに居残りの仲間…一番隊の隊員に連絡をすると、四日後までにはと答える。
「明日の夜。俺が戻るまでに用意しておけ」
『明日?!間に合いません、せめて三日…』
「明日の夜だ」
悲痛な声を無視して通信を切った。ベッドに転がって電伝虫を投げる。疲れた。
「…何も考えずに仲間や女と遊び回れたのは、どのくらい昔だったかねい」
一番隊のメイン仕事は大まかに言えば医務室の管理と雑用。雑用と言うのは名ばかりであらゆる在庫管理や調べ物、書庫の整理及び管理…細々しく、他の奴らが面倒がる仕事が全部回って来る。
「!」
電伝虫が音を立てる。受けると別な隊員から。細々しい連絡をくれるのはありがたい。
「…マルコだ。…それは保管庫の方にしまってくれ。どの辺りが破れてる?…解った。早急に代わりを探せ」
前回の戦闘で紛失中の海図が見つかったものの、一部破損しているとの事。
「他の隊の手を借りろ。島の本屋シラミ潰しに探せ、…とにかく見つけろ。あるはずだよい」
仕事はいつだって山積み。任務で飛び回ることも増えた。戦闘が起こりゃ命掛けの立ち回り。
思いつくどれも、機能不全の言い訳には使いたくなかった。
結局は俺自身の問題なのだ。女はそれなりに綺麗だし柔らかいし、仕事をしてんのはウチの仲間の誰もが同じだよい。
「…はぁ。やりてえ…」
命に関わる大病って訳ではなく、誰に相談もできずに今日まで来た。消えない渇望を口にしたら、温かな空気と共にドアが開く。現れたハナはガウン姿で随分とスッキリした顔。
「お前な、何で勝手にガウン着てんだよい」
「だってお洋服も血だらけなんですよ?服を洗ったら着るものがないじゃないですか」
俺はフロントに電話してガウンをもう一着要求した。こいつが着たものを着る気にはなれない。
「えーと、もしかして、サービス精神発揮して裸で出るべきでしたか?」
「ふざけんな」
サッチに似た快楽主義で性格破綻。だが身のこなしや戦闘での働きを見てりゃ嫌でも思う。海賊としては『優秀』と。
「おいハナ。前から一度はっきり言っとかねえとと思っていたがな…」
胸ぐらを掴んで引き寄せたら、腰で結ばれた紐を辛うじて残し、ハナの着ていたガウンは大きくはだけた。
「あ」
「…っ!」
傷だらけでよく焼けた褐色の肌。先に会った娼婦より小さい乳房と胸元のオヤジの刺青。足の付け根まで見えた。
「…悪い」
どくんと一つ、胸が鳴った。ハナの方は裸を見られた事に頓着せず、隠しもしない。ただ真顔で俺を見詰める。その視線に耐え兼ね逸らしそうになった時、ハナが口を開いた。
「…マルコ隊長、最近ちゃんと寝てます?」
「…ああ?」
「目の隈濃いから。悩み事でもあるのならこのハナにどうぞ話してください!」
「………」
阿呆が何か言いだした。ハナは変に鋭いから困る。肌を見てしまった罪悪感が一気に霧散した。
「…少しくらい慌ててみせろ。さっさと隠せよい」
ガウンから手を離してもハナはそのままなので、仕方なく俺が乱暴に前を閉じ、紐を結び直した。
「それより!任せてください、わたし忘れるの得意だから相談してもすぐに忘れるのでご安心を!」
「要らねえ」
「遠慮しないで!さあ!」
「服乾いたら出て行けよい」
「嫌です!隊員として、隊長の憂いを晴らさねばなりませんからね」
「その熱意は仕事で示してくれ」
「…それはそれ、これはこれ!」
ギャーギャーうるっせえ。しつこい。どうにか部屋から追い出そうとしても、頑として譲らねえ。
服が乾いて、着替えを済ましてもハナは部屋に居座り続けた。
「…あ、じゃあ、マルコ隊長わたしの裸見ましたよね?責任とって隊長の悩み話してください!」
ドヤ顔で仁王立ち。何がどの責任なんだ?こいつの言ってることが解らない俺がおかしいのか?
「だいたい、マルコ隊長は仕事を抱え込みすぎなんですよ。わたしたち隊員の事、もっと信じて頼ってくれてもいいじゃないですか」
口を尖らせて、好奇心ではなく俺を案じてと言う。他の仲間も働き過ぎだと気にかけてると。
「……」
「隊長が倒れたら、みんな困るんです。隊長も格好悪く倒れたくないでしょ?」
信用しているし、信頼してるから、仕事を頼んでるんだろうが。隊員それぞれの得意分野は把握してる。
それでも賄えねえ分は俺がやらねえでどうする?…俺は白ひげ海賊団の一番隊隊長なんだよい。お前らの事を守るのも育てるのも家族としての務めだろい。
「…聞いたら出て行くかい?」
「はい!」
女は抱けねえは、ちんこは勃たねえは、仕事は終わりがない。ハナの指摘通り、睡眠時間も削っている。これ以上ハナと話していると何かがブチ切れそうだ。
「…勃たねえんだ」
端的に困り事を口にした。ハナが間抜け面で聞き返す。
「…え、ッ…うわ!」
どんな反応するのか見てやろうと、ハナをベッドに引き倒し口元を歪めてみせる。
「女を抱こうにも、ココが使いモンにならなくてな」
「え、あの」
ハナの手を掴んで股間へ導く。さっきまでの威勢は何処へ?ハナは面白えくらい狼狽えた。
「…せっかくだからな、お前でも試してやるよい」
「隊ちょ、ん、んん…っあ、ふぁ…」
嫌がらせのつもりで唇を塞いだ。
引っ叩かれるかと思ったのに拒絶では無く甘い声が応えた。
「…っ!」
温かく湿った口内、柔らかな舌。鼻にかかった声を聞いた瞬間、下腹部が痺れた。
「…るこ、隊長…、うわあ!」
俺はハナを抱え上げベッドを降り、ドアを片手で開けて、部屋から彼女を投げ出した。ぽかんとこっちを見上げる顔に、彼女の荷物を投げ渡す。
「…忘れろよい」
扉を閉じて鍵をかけた。その足でバスルームに行き、ドアを開けた瞬間に石鹸の香りがして、力任せに閉じた。
「~~くそ!」
香りのせいでハナの乱れた裸体と甘い声が蘇る。トイレのドアを開けて便座に座り、頭を抱えた。
「……何で今、勃つんだよい!」
ウチで仲間になってから、ハナを女として見たことなんか無かった。誓ってもいい。
俺が選んで来た娼婦や、出会って関係を持った女とは似ても似つかねえ。そもそもハナの顔なんか全く好みじゃねえ。
「ああ、くそが!」
腰布を緩め痺れる股間に手を伸ばすと、懐かしい屹立と対峙できた。握り込んで擦ると、焦がれた快楽が駆け巡る。どんなに否定してもハナの乱れた姿が頭を支配した。
「…は、…はぁ…くそ…」
どろりと濃い粘液を吐き出した後、俺は苛立ちで焼き切れそうになった。
その後。出港後にウチで顔を合わせたハナは異様なほど普通だった。
「あ、マルコ隊長!お帰りなさい。隊長の机の上にフスマからの書類置いておきました。あとコレはイゾウ隊長から預かりものです」
「…おう」
「褒めてください!」
「早く仕事に戻れよい」
俺がいつも通りに追い払うと、いつも通りにむくれた顔をして舌出して去った。嫌になるくらい普通だった。
「…くそ」
去り際に見せた赤い舌。貪った口の中の感触を思い出し、そしてそれは…俺の身体に熱を持たせる。どこまでも腹立たしい。
ハナのキスで抜いた後、娼婦を買ってみたが勃たなかった。ウチに帰ってからサッチに借りた動画を見ても駄目だった。
それが今、ハナとのやり取りだけであっさりと熱を持とうとする。
「…認めたくねえが、ハナにしか反応しないみたいだねい」
頭を掻きむしったがどうにもならない。抑圧され、溜め込まれた欲を吐き出した時の猛烈な快楽は、次を求めずにいられない強烈なものだった。
「…はぁ」
頭を振り、俺は手元の書類に集中した。
「…なーんかさ、マルコは最近、ハナばっかり見てるよな」
「ああ?」
眼精疲労に呻きつつ甲板で一服していたら、サッチが寄って来た。太陽光が目を殺しそうだ。
「…そんなに見てるかい?」
「見てるな。しかも目つきがやべえ」
「目つきの悪さはお前もだろい」
「ちがうっての。何つーかこう…舐めるように?見てる時あるぜ。自覚無しか?」
「~~ゲッホ、ゴホゴホっ!」
吸い込み損ねて盛大にむせた。それを見たサッチがゲラゲラと笑う。
「おいおい、何だよマルコ!めっずらしいの!ウチの妹がいくら可愛いからってよー。見過ぎて穴とか開けるなよ」
「…ごほっ!アレのどこが可愛いってんだい?」
「馬鹿だなあマルコは。ハナの可愛いところも解んねえの?それって駄目過ぎだろ!…てか自分の隊のやつの褒め方も知らねえもんな、お前」
「礼なら言ってるし労ってもいるよい。やる事やった奴にはな」
ハナの良いところ?何だそれは。
潮風にさらされパサついた黄昏色の髪、太陽を浴びたそばかす顔。そこら中傷跡だらけで顔にも大きな一筋の跡がある。すぐに泣く。うるさい。仕事をいつまで経っても覚えやしないしサボってばかり。
娼婦やナースとは肌質も違うし日焼けして色だって違う。きっと手触りだって違う。凹凸だらけの傷跡を指で辿れば、全身を一筆で探れそうだ。
『マルコ隊長ー!』
…ああ、それでも。ハナと聞いて脳裏に浮かぶのは、いつも笑った顔だ。鬱陶しい満面の笑み。
「…るこ、おい!マルコ!!」
「!」
黙った俺を訝しみ、サッチが肩を叩く。
「…俺は、ハナを…」
「?」
「何でもねえ」
煙草を潰して休憩を終える。
これ以上は考えちゃならねえ、そんな気がした。お茶休憩もしろよー、とかクソみたいなサッチの声がしたが無視した。
「………」
机に向かって仕事を再開したが手につかない。海図を見ても資料を見ても浮かぶのはハナの顔で。
「マルコ隊長ー!」
「………」
そう、この顔だよい。
こいつのせいで俺の仕事が進まねえんだ。
「…マルコ隊長ー?」
「………」
こいつ、掻き乱して俺のを捩じ込んだらどんな声出すんだろうな。キスの時よりイイ声出すだろうか。
「…マルコ隊長、大丈夫ですか?」
「………、…っ!!?」
ぼんやりと眺めていた目の前の顔。それが自分の妄想ではなくハナ本人だと解り、ようやく脳味噌が動き出す。
「……悪い。ぼんやりしていたよい」
「え、隊長が謝るとか怖い…!」
「…俺だって謝るし礼も言うだろうが」
「滅ッッ多にないですけど、まあ稀には」
「…………」
…そんなに言ってないだろうか。俺はハナも隊員も変わらずに接しているつもりなんだが。
「これよかったらどうぞ」
書類や資料を避けて置かれたカップ。ゆらゆらと湯気が立つ。仕事をしすぎだと俺に言ったホテルでの一幕がまた脳内に蘇る。
「ハナ」
「はい」
「…お前、あの話を誰かにしたかい?」
目を見つめたまま言うと僅かハナの瞳孔が揺らぐ。
「忘れました」
笑顔でハナは繰り返す。この顔を見ると駄目だ。
「覚えてるだろう」
いつから?俺はハナを求めていたから他の女で勃たなくなったのか?そんな阿呆な話があるか?惚れた女も何人か居たが、そいつ以外抱けなくなるなんて無かった。
「忘れましたよ」
…イライラした。他の奴と楽しそうに話す姿に。手がかかる。単に俺が構いたいだけだった。違う違う、思い違いだ。言い聞かせた感情が裏返っていく。
「…そうか。貰うよい、ありがとさん」
意識して礼を言いカップに口をつけた。お茶にしては苦味が強く舌に残った。飲めなくはないが飲んだ事のない味だ。
「…忘れろと、言ったのは隊長です」
「そうだったな」
「口外はしてませんよ」
「…ああ」
「……それ、どうですか?」
「ああ?」
カップの中身を飲み干し、ハナに渡すと彼女はこちらを窺うようにした。
「マルコ隊長インポで悩んでるって言うから。島で精力剤買って来たんです。どれが良いか解んなくて、とりあえず一番強いやつにしたんですけど…」
「はあ?!」
何でそんなモン飲ますんだよい!俺も俺だ、何でこいつの持ってきたモノを素直に飲んだ!!
「ハナ、お前な」
「効きませんか?おかしいなあ、速攻バリ立ちって口コミで…」
身体を流れる血が熱を持ったみたいに熱い。汗が出てきた。ガセでも摑まされてりゃ良いものをガチのモン買ってきやがって。
「……っ!」
まずい、と俺は机から離れベッドに潜った。
最悪な事に見事に勃った。嫌になるくらい張り詰めて辛い。出したい。自分で扱いて抜きたい。
「あ、もしかして勃ちましたか?!やりましたね、マルコ隊長!」
「…そうだな」
落ち着け。言い聞かせても駄目だった。ハナの声を聞いてると手を伸ばして捕まえて押し倒したくなってくる。
「ティッシュ要ります?雰囲気のいい歌を歌いましょうか?わたし歌は得意なんです!ええと…そうだ、手拍子とかしましょうか?!」
何か手伝おう、というハナの謎の申し出を断る。手伝ってくれんなら、その手で握って扱いてくれ。口に含んで舐めてくれ。
「…頼むから、黙って、出てってくれよい」
触れたい。ハナに。欲しい。奥まで触りたい。溶かした後でハナに深く捻じ込みたい。 こっちが必死に欲望押さえつけて我慢しているのに、ハナは呑気に言った。
「…ねえねえマルコ隊長、わたし、役に立ちました?」
声が近い。わざわざベッドに寄ってきたのか。寄るなと言っただろう。このバカ女。
「…ハナ」
何か俺の中で弾けた。股間は毛布で隠しつつ、ベッドの上で半身を起こす。
「はい?」
動くと辛い。僅かな摩擦にも敏感で、痛みすら感じる。挿れたい。挿れたい。他の誰かじゃねえ。ハナに。ハナがいい。
気持ちが決壊する。
途端にどっと感情が波のように押し寄せる。認めたくなかった。いつの間にかハナに惚れてたと。
「お前、…今」
気になる奴が居ねえなら、俺の相手をしてくれねえか。
「ーーー…っ!」
口の先まで出かかった言葉を微かな理性で噛み殺す。
「?」
今言ったところでどうなる。薬のせいで、欲を満たしたいだけで、と思われるだろう。そんなのはごめんだ。もっと確実に的確にハナの心を揺さぶる瞬間を狙わなくては。
「……少し、話が出来るかい?」
「…出て行けって言いませんでした?」
「ニ、三質問するだけだ」
動悸が早まる。触れたい。まだ駄目だ。耐えろ。
「…お前。今、好きな奴とか居るか」
「オヤジとサッチ隊長です」
即答で帰ってきたのは予想通りの名前と予想外の名前。
「そう言う好きじゃなくて、男として…」
「はい。男として、ですけど」
飛んできた言葉が胸を抉る。冷や水を浴びた気分だった。
「…そうかい」
ハナは笑った。デレデレとみてるのが嫌になるくらいだらしなく。
「昔っから、わたしの事を褒めてくれる人が好きなんです。サッチ隊長はいつでも、小さい事でも何でも褒めてくれるから大好き!それによく可愛いって言ってくれるし」
はにかみながらハナは続ける。嘘偽りない乙女の顔で。
「マルコ隊長は笑うかもしれないけど、わたし、特別に大事にされたい。壊れ物みたいに扱われたい。そうしてくれる人が好き。嘘でも、上手に騙してくれたらそれでもいいんです」
言葉の一つ一つが鋭い刃のようだ。どれも俺には出来ない事ばかり並んでいたから。酷い言葉で詰られたり、戦闘で大怪我だってしてるのに、…こんなに苦しかった事はない。身体は熱いのに気持ちが冷えていく。
「俺は」
「え?」
「…俺は、どう思う」
「…皆のギリギリの限界見極めて仕事を振り分ける所はいつも凄いと思ってます。隊員は皆、マルコ隊長の事、尊敬してますよ。今みたいに悩みとか話して頼られたら嬉しいです!」
そうじゃねえ。男として、俺はハナから見てどうなのか。肝心な聞きたい事が聞けない。俺はこんなに情けなかっただろうか?
「…あ!大丈夫です、別にインポだからって隊長の事を情けないとか思いません!」
「……ありがとさん。解った。行ってくれ」
普通を装って礼を言う。ハナは嬉しそうに笑った。そして会釈して出て行った。ドアが閉まった後、俺はベッドに倒れこんだ。
「…痛え」
ジンジンと股間が痺れる。抜きたくてたまらないのに何故か抜きたくねえ。
「…っくそ…」
結局、俺は部屋の鍵を閉め股間の熱を握り、抜いた。
「…はぁ、…っ、うぐ」
一度認めてしまえば、欲望は俺を丸呑みした。あの女が欲しくてたまらないと。
「…ハナ、っハナ…」
頭の中で何度も彼女を嬲った。どんな風に乱れるのか想像して。俺の手でおかしくなる所が見たい。喘がせて縋らせて、求めさせたい。
「…は、…はぁ…」
抜き終えた後の虚無感は大きく、俺を打ちのめすのに充分だった。べっとりと粘液のついたティッシュを屑かごに投げる。
こんな風に、この気持ちも捨ててしまえたらいい。きっとハナは俺を好きにはならない。
「…それが何だ」
無理だなんてまだ解らねえよい。あの身体が欲しい。どうしても。ハナの身体も、その心も。他の誰にも譲りたくねえし、渡す気もない。
「特別扱いして、褒めて、可愛がる、か。…得意分野じゃねえな」
股間の熱は引いても自覚したハナへの恋慕はじりじりと胸を焦がす。
「…どんな手使っても落としてやる。俺のところまで」
俺は唇を舐め湿らせて、放り出していた机に向かった。
虎視眈々と舌舐めずり。
(…サッチ隊長、最近マルコ隊長がわたしに優しい!…病気かな…)
(あー、それな。うん。身の危険感じたら躊躇わずに急所狙えよ、ハナ)
(…?はい、了解です)
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