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Go to Heaven, Go to Hell.
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(※108,108リクエスト/ナナ様)
(※海賊サッチで上司部下関係)
(※女癖悪さに本命の女の子から相手にされない)
(※最後にはくっつく)
(Side THATCH)
彼女について知ってる事はたくさんある。血や埃なんかの汚れが目立たないからって好んで黒い服ばかり着る事。鬱陶しくて嫌だと髪を伸ばさないし、邪魔臭いとアクセサリーを一切付けない事。自分の事にわりと無頓着で、そのくせ仲間の事にかなり気を使う。慎重で冷静な判断ができる癖に無鉄砲に突っ込んでく。
四番隊になってから禁煙したけど時々こっそり吸ってて、その時フィルター噛む癖があったりする。
「…なあマルコ。俺さー、ナナの事についちゃァナナより詳しいと思うんだよね」
「そうだな、お前ナナのストーカーみたいなもんだからな」
マルコは俺が持って来た酒をぐいぐいと干して手酌で注ぎ、また飲む。
「優しく影から見守る頼れる兄貴と言ってくれよ」
「サッチがナナを見守るって言うより、毎回ナナがサッチの面倒見てるだろい。そもそも大人しく影に居ねえし。俺はよくお前の愚痴を聞かされている」
「え?!なんでお前ばっかナナから相談されてんだよ!狡い!!」
俺もヤケクソのように酒を干すとマルコが酒瓶を傾け注いでくれた。
「…なんだよ、珍しいの。優しいじゃん」
「懲りもせず諦め悪く、不毛な鬼ごっこ続ける阿呆野郎への餞だよい。いっそナナにハッキリと言ったらいいだろい。お前が好きだって」
ため息をつかないように酒で喉の奥へと流し込む。
「好きだって自覚して速攻言ったさ!俺なりに言葉を尽くして愛を語ったよ!そしたら…」
思い出しても胸が痛む。ナナは路傍の犬のフンでも見るような顔してこう言ったのだ。『…なにそれ、吐き気がするんで二度と言わないでもらえます?』と。
「~~もうなんで伝わらねえんだろうな?俺はこんなにナナを愛してんのに!本気なのに!」
「上陸のたびに女の尻追っかけてりゃ信用もクソもねえだろい、だからもっと真面目に…」
「俺はナナに対しては嘘偽りなく超真面目に接してるぜ。突っ込みたいとか触りてえとか可愛くてたまらねえとか!!思った事全部言ってるし!隠し事一切ナシよ?」
マルコは頭痛を堪えるように額を押さえた。
「すまねえナナ…俺にはもう愚痴を聞いてやるくらいしか出来ねえよい…」
「俺のこともちゃんと励ましてくれよマルコ!!」
俺もマルコもくだらなくてすぐに忘れそうなどうでもいい話で盛り上がり、笑って飲んでいた。
「マルコー、俺、そろそろ部屋戻るわ。酒まわってきた」
「…おう」
半分眠りの世界に入ったマルコがぼんやりと手を振った。まだ飲んでもいいかと思ったけど、明日に備えてシャワー浴びてから私室へ戻った。
歩くと世界が揺れる。波の音なのか耳鳴りなのか。ああ。酒はいいよな。クソみたいな考えをバターのように溶かしてくれるから。
「…あー、やべえ。なんか夢見そう…」
自分のベッドに突っ伏して、優しく手招きする睡魔の手を取ると、僅かに残る理性ってやつが警告を鳴らす。野生の勘なのか、あの夢を見る時は何故か寝る前に気がつくんだ。
「…まあいーか。一人で泣かすよりはマシってもんだろ」
…見たくない。見たい。天秤はどちらを掲げたのだろうか。俺は目を閉じて眠りについた。
誰かの口が動き言葉を放つ。俺は誰かの目を通してその光景を見ている。
『化け物め。おまえなんか人じゃない』
『この怪物!あんたのその目!普通じゃないわ!』
顔も声も霞がかって思い出せない。多分両親だったはずの男と女。
場面は切り替わる。知らない場所だけどもう何度も見ているせいで懐かしく思う。
『お前みたいな奴を、誰も愛す訳がないだろうが』
『愛されるのには資格がいるの、あなたにそれが有ると思って?』
侮蔑の眼と口調。飽きるほど向けられたソレに俺は肩を竦めたくなるが身体は動かない。
首に絡む手。誰かの首が締まり俺の首も締まる。喉を締める指にどんどん力が入る。
食い込んでくる感触は生々しく爪が皮膚を裂く。息が詰まる。視界が霞む。生理的な涙が、酸素を求める口が、体液を流す。
…震える手に握られるナイフ。一瞬だけ刃に写る幼い女の子の顔は、よく知る彼女の面影があった。
「ーーーー、っはぁ、…ゲホッゴホ!」
やり方を思い出したように呼吸が戻り、酸素を求めて咳き込んだ。今見ていたもの体験してきたものが夢だと、理解するの少し時間がかかるくらいリアルな悪夢。これは俺の夢じゃねえ。これはナナの見ている夢だ。
「…はぁ、は…。まだこの夢見るのか。大丈夫かナナ…」
浴びたシャワーが無駄になるくらい、汗だくの身体。とりあえず額を拭う。
あいつがマルコに連れられてウチに引き取られてから、もう10年くらい経つと思う。
まだ俺もマルコも隊長になる前の昔の事だ。初めは妹できたぜヒャッハーくらいに思ったけど、暫くしてから、俺は時折、こうして首を絞められる悪夢を見るようになった。
何なんだ?どっかで呪いでも拾ったか?と首を傾げつつ日々は過ぎた。
そしてある日、俺は偶然、ナナが昼寝しているところに居合わせた。甲板のスッゲー隅っこ、俺が人目を避けて昼寝する時に使う一等地。
「………っ、…うぅ」
胎児のように小さく丸まり、脂汗を浮かべ、酷く魘されていた。
「……だ、れか……」
「ナナ、ナナー。おいって!起きろ!」
揺すり起こしてやるとぐちゃぐちゃの顔で飛び起きた。
「……あ、れ。サッチ。…ゴホっ…何か用?」
服の袖で顔を拭ってナナは普通に立ち上がる。慣れた仕草が、これは彼女にとってよくある事なのだと教えていた。
「…………すげー魘されてたけど。怖い夢でも見てたのか?」
「……?さあ、見てた夢なんかいちいち覚えてない。そんなに唸ってたの、わたし」
嘘じゃない、と思う。脳みそが拒絶してるんだろう。
「…起きたんなら、気分転換にお手伝いしてくれよ。おやつのプリン作るから」
「了解。マルコが好きなんだよね、プリン。きっと喜ぶよ」
「あー、いや…ナナも好きだろ?プリン」
「…多分。マルコが美味しいって言うから美味しいんだと、思う」
以来、あの悪夢を見た翌朝は決まってナナも何処と無く空元気で、しかも目元を少し赤くしていた。その都度同じもんを見てるのだと、変に確信があった。
「勘違いとかじゃねえみたいだよな。これは…」
付き合いは結構長いし、ナナの泣いた顔くらい何度か見てる。俺がブチ切れた所も何度か見られてるし、それは他の仲間も同じだ。俺が特別な訳じゃねえ。
「サッチ隊長本当うざい。鬱陶しくてストレス死するんであっち行って」
「ナナの元気いい姿見られんのって、最高の眺めだな!」
「…チッ!マジ禿げろ!!」
「舌打ち!?それは酷くねえか?!」
ナナも知らない(知らないフリをしてる?)秘密を俺だけが知ってる。その優越感と後ろめたさに、いつも甘く締め付けられた。
「なあなあ、次の島で一緒に買い物行こうぜ。何でも買ってやるからさ」
「サッチ隊長、娼館とナンパで忙しいんじゃないですか。欲しいものなんか自分で買えるのでいいです」
…だってこの悪夢を見るたびに一人で魘されて泣くんだろ、ナナ。オヤジの名前にすら縋れずに泣きながら飛び起きて、俺が心配してみてもきっとまた何でもないし平気だって言うだろ。お前は優しい。お前は強いよ。
だけどさあ、俺、お前の家族で兄貴で…隊長じゃん。
「ナナが構ってくれないから、他の女の子に構ってもらってんのになー」
「あーはい、そうですね。早く行ってきてください」
頼ってくれよなんて言っても、ハイそーですねって言うだけで少しも頼ってくれねえし。構ってもくれねえし!!
「…呆れたり怒ったり、笑ったり。生きて生きて幸せに笑ってて欲しいんだよ。ナナに」
「…何か?風で聞こえませんでしたけど」
顰めっ面上等。俺はお前が大好きだよ。ナナ。
「要約すると、ナナ可愛い、撫で回してやりたいって事を言ったんだよ」
「…はあ、そうですか」
話にならないと言わんばかりに踵を返し去っていく後ろ姿を見えなくなるまで見送った。
宣言通り俺は昼間っから女の子たちと遊び呆けてから酒場に繰り出した。当たりをつけて飲んでいたらナナが入ってきて、しばらくして俺に気付いて嫌そうな顔をした。
「…なんでこっち来るんですか、邪魔ですよ」
「んー、まぁほら。お兄ちゃんとして、ナナのお相手に挨拶とか」
連れの男を査定するように眺めると、居心地悪そうに愛想笑いされた。
「いいなあ、あんた。ナナと今夜はヤるんだろ?」
ぶっかけられた酒はわざと避けずに被った。ナナの冷たい目線に舌舐めずりすると、ナナは男の腕を掴んで席を立った。
「…ごめん、もう出よう」
ナナは男と店を出て、俺は心配してくれた女の子と店を出た。ホテルでシャワー浴びて昼間の繰り返して、出航に合わせてウチに帰る。
「一人寝が寂しいなら、俺に声掛けてくれたらいいだろ?ナナ」
「もう島で会っても話しかけて来ないでくれますか、サッチ隊長」
よく見える首筋に残る赤い色。付けてきたのはわざとだろう。
「はは、絶対やだね」
「……買い出しの荷物、確認してください。リストこれ」
「りょーかい。また一緒にお仕事だなーナナ!」
隣に並んだら速攻で距離を取られた。
「そういう反応されっと興奮してくるんだけどなあ~、ナナちゃんよう」
「香水臭いんで寄らないでもらえますか」
俺はシャワー浴びてきたから香水臭いなんて訳ないんだけど。
まあ不機嫌でも泣くよりいいよな。ナナは怒った顔も可愛いし。
「…ナナは煙草の匂いするな」
微かに香る煙草は男の移り香か、それとも…。
「……一本しか吸ってないんで、すみません」
素直に白状するあたりがまた可愛いんだよな。嘘吐いても騙されてやるのに。
「別に責めてねえよ。けど、マルコとシガーキスするのはマジ止めて。本当お願いします」
「…盗み見やめてください。本当お願いします」
笑ってくれたら一番嬉しいんだけど、どうも俺はお前を笑わせるのが下手みたいなんだよな。何でだろう?とりあえず泣かせてないのが救いだけどな。
…でもさ、お前の事一人で放り出したり、泣かしたり、お前の事傷付ける奴居たら、全部俺が消してやるから。
「…なー、ナナ。いつか俺が死ぬ時はせいせいしたって笑ってくれるよな」
俺は普通に言ったつもりだけど、どんな顔をナナに見せたのだろう。ナナは急に真面目な顔して、俺のシャツ…というか胸ぐら掴んだ。
「サッチ隊長は、ヘラヘラと笑いながら女の子と遊んでたら良いんですよ。似合わないんで死ぬとかそういうのやめてください」
「…え、あ、はい…」
気迫に押されてたじろいだ俺を解放し、不愉快そうに歩き出したナナの後を小走りで追いかけた。ああ、また怒らせたなー、何が悪いんだろう。こんなに正直に誠実に接してるのに。
→(Side U)